AM11:00

僕が起きたらサンディーは家にいなくて。
キッチンのテーブルの上には、朝食のサンドイッチと、
僕に宛てた伝言メモ。

【夕食の買物に行ってきます】


深い夢に入ってると、サンディーが僕を起こす声も聞こえない。
きっと今日も出掛ける前に起こしてくれたんだろうなぁ。

卵とハムのサンドイッチを頬張りながらいれたココアを飲む。


「あ。小鳥に挨拶しなきゃ」


僕らの前に住んでた人サクラは、理由あって部屋を出ないといけなくなり、服だけを持って、
ここを去って行った。
家具もすべてそのままにして。
そして、大事にしていた小鳥も僕達に預けた。

サクラが大事にしていたものは、僕達にとっても大切なもの。

だからいつも小鳥に挨拶をする。

リビングの窓際に置いている鳥篭に近づいて。
僕は異変を感じる。

とても
とても
嫌な予感。
心がざわざわした。

覗きこんだ鳥篭には、
篭の底で動かない青い小鳥。

目で見ただけですぐに分かる。
生きている温かさは感じられない。

…小鳥は死んでいた…

昨日までは生きていた。
動いて鳴いて呼吸していた。
なのに今は、
死んでいる。


僕は父さんと母さんを思い出した。

こわい
とてもこわい


サンディーに一刻も早く会いたい。
この部屋にはいられない。

僕は急いで着替え、サンディーのいる外へ飛び出した。

サンディーがいつも行く店に向かって、
全速力で走った。

立ち止まったら、
とても大きな不安に捕まってしまいそうな気がしたから。


いつもの公園を通りすぎ、真っすぐ真っすぐ走る。

息が上がる。
酸素が足りない。
苦しい。
もう嫌だ。
なにもかも。
ねぇ。誰か助けて。

「どーしたのディニー?寝癖ついてるよ」


前方の探し人は、僕を見つけクスクス笑う。

やっと見つけたサンディーの前で、僕はようやく走るのを止めた。
伝えなきゃいけない事。

「サンディー!!小鳥が…あの小鳥が…さっき挨拶に行ったら…
死んでるの!!全然動かなくて…」

情景を思い出して、言葉が重くのしかかってくる。

「…小鳥が…?朝までは元気だったのに…」

サンディーの顔は、死を悼む声とは別に、
いつもみたいな、ヘラっと笑う顔。


「サンディー…ねぇ…どうして笑ってるの…?」

「えっ?私、笑って…る?
…おかしいな。私今とても悲しいのに」

困惑を隠せないサンディー。

僕はサンディーの灰色の両眼が泳いで、
必死で何かを探しているのを見た。

でも、その探しものは、
見つからないようだった。


「…お墓作らなきゃね」

僕はサンディーに言った。

「そうだね。アパートの庭に埋めてあげよ」

僕はサンディーの、両手に持ってた買物袋を1つもらった。

そして、あいた手を繋いで、
僕らは家に帰った。

僕は笑えない。

サンディーは泣けない。

いつも僕らは、
でこぼこで、
穴だらけ。


それでもいつか、この穴が、
少しでも埋まっていく事を
信じてる。

でも
時々
僕は
こわくなる。

とても
とても
こわくなる。


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