―今日のディニーは朝から機嫌が悪かった―
AM8:30
2LDKの間取りには、私とディニーの2部屋。リビングには遮る物はなく、そのままキッチンへと続いている。 そこには2人が食べれるだけのスペースしかない、 黒色の小さなテーブル、白色の2脚の椅子。
テーブルに出来上がった朝食を並べ、最後の皿を置いた。
「さて。ディニーを起こそうかな」
ディニーの部屋の扉に目だけを向けた時。
バタン!!
激しい音とともに部屋からディニーが出て来て、 こっちに近づいてくる。
あっ、機嫌が良くないな。 って思った瞬間。
ガシャーン!!
ディニーはテーブル作ったばかりの朝食の全てを皿ごと床にぶちまいた。
私は呆然と、目の前のディニーを見る。
怒りに満ちた顔から、みるみる罪悪感の表情に変わり始めた。 青い瞳はひどく揺れていて今にも涙がこぼれてしまいそう。
「ちょっ!ディニー!!」
声をかけようとしたら、ディニーは走って部屋から飛び出してしまった。
玄関を閉める音の後に残ったのは、ひどく静まり返った部屋の沈黙だけ。
取り合えず私は、床に散らばった朝食の残骸を、 溜息と一緒に片付けることにした。
「いたっ…」
割れたコップの破片で人差し指を切った。 血がプクっと球体のように指の上で形を作る。 でもすぐ血の球体は崩れて、指をつたって床に落ちた。
「ディニー、怪我してないといいけど」
心配になりながらも、血を拭いて片付けに戻ることにした。
グゥゥゥゥ。
逃した朝食にお腹が叫び声をあげる。
それからディニーは、昼になっても帰って来なかった。 PM6:30
キィ。と控えめな玄関のドアを開ける音がして、 ディニーが帰って来た事に気づく。 私は夕食の準備を中断して、ディニーを出迎えに向かう。
開口1番のセリフ。
「あ…あ…の。朝は…ご…ごめんなさい」
謝罪とまた泣きそうなディニーの顔。
「僕…サンディーのこと大好き…だから…だから…」
私はディニーを抱きしめる。 できる限りに優しく、優しく、強く、ここにディニーが存在してるよって分かるように。
「言わなくてもいいよ。私ちゃんと分かってるから」
ディニーのまわされた手の力に、
―あぁ。やっぱり男の子だなって―
もしあの時、選ばれたのが私の方だったら、 ディニーは、こんなにも辛い目には遭わずに済んだのかな。 そう考えるのも、もう何度目だろう。
思考を現実に戻したら、夕食を作っていたのを思いだした。
「ディニーおなか減ったでしょ?ごはんもう出来るから」
その言葉に、こめられていた力が弱まって、ディニーの両手は私の体を解放した。
「今日はどこに行ってたの?」
「んー?いつもの公園」
「暗くなるまでいたら危ないよ」
「ん〜。分かってる。でもあそこが好きだから」
「ディニーのお気に入りだもんね」
「公園にいたらね、色々な人がいるから、何だか面白いんだぁ」
「…そっか。」
夕食が出来上がって、今日初めての食卓についた。
明日のディニーは大丈夫だろうか? 心と体を擦り減らしながら生きるディニーが、 いつか跡形もなく消えてしまうんじゃないかと、 私はいつも何処かで怯えてる。
振り切ることの出来ない過去は ちぎれない鎖となり そこかしこに絡まって 未だ繋がれたままで 私達は自由になれないでいる。
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