コンコン。
「おや、珍しいお客さんだな」
「久しぶり、オリヴァー爺さん」
ノックとともにやって来たのは、オスカーだった。
「まぁ部屋にあがりなさい。お茶でも煎れよう」
「ありがとう。今日は孫はいないの?」
「あぁ。金曜日だからサンディー連れて、大学の図書館に行っとるはずじゃ」
「孫はサンディーと仲良しか。」
「ディニーは、まったく寄り付かないんだよ」
「…そっか」
席について、紅茶のいい匂いが鼻をかすめる。 カチャと白いティーカップが置かれる。
「お前さんも相変わらず、フラフラしておるのかい?」
紅茶を飲みながらオリヴァーが問う。
「フラフラってー。だから旅をしてるの!俺は旅人なのー」
人を浮浪人のように言わないでもらいたいね。と文句を垂れる。
「…ま、いいけど。俺ね、サクラの故郷に行って来たんだ。」 サクラの名前が出た時、オリヴァーは少し驚いた顔をした、だかすぐにいつもの表情に戻る。 オスカーは続けた。
「サクラの家を訪ねたら、兄さんが出てね。 …サクラ亡くなったって教えてくれた。」
手に持っていた手紙をオリヴァーに差し出す。
「サクラからの手紙、死ぬ前の日に、書いてたんだって。住所書いてないから、送れなくて、 知り合いが来るのを待ってたって。」
オリヴァーは出された手紙を受け取り、封を切って、便箋を取り出した。
「サクラさぁ、サンディーとディニーを最期まで心配してたらしくて、 んで、サクラが死んだ事は、二人には時が来るまで、 …教えないでって」
手紙を読むオリヴァーの両目から涙が流れ落ちている。
「時がきたらって…一体いつになるんだろうね。 サクラ本当馬鹿だよ。 サクラの体の事知らずに旅に出てた俺は、 大馬鹿ヤローだな」
オスカーの目からも涙がこぼれる。
ひとしきり泣いて、オスカーは 「もう帰る」と言って、席を立った。 玄関まで見送ったオリヴァーは、
「次はどこへ行くんだ?」
と聞いた。 オスカーは、
「さぁーね。」
とだけ答えた。
「野垂れ死ぬ前に帰ってこいよ」
「何言ってるの!俺死なねーよ。淋しがる人がいるからねー」
と笑いながら去っていった。
サクラの死を、二人に隠すのは正しいこととは思えなかったが、 遺言は守らなければならないだろう。 その時期はいつくるのかは、 まだ誰にもわからない。
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