今日は月が少し顔覗かせる夜。
僕は、アパートの屋上にいた。落下防止のフェンスを背に夜空を仰ぎ見た。
浅い溜息がもれた。

『ディニーも綺麗だよ』

突然後ろから聞き慣れた声が掛けられる。
フレイムは知っていたんだ、今の溜息は憂鬱からくるものじゃなかったって事を。

『あれ?あれれ?サンディーは?』

フレイムは、キョロキョロと辺りを見渡してサンディーを捜す。

「あ…サンディーね、今日お腹壊してベッドで寝込んでるんだぁ。
昨日ネジ食べちゃってさー」

危険防止のフェンスに腰掛けて、僕は事の顛末をフレイムに話した。

『ふぅ〜ん。足りない部品ね…』

フレイムは顎をさすりながら呟いた。

「うん…ただの物語だって分かるのに、サンディー信じて…どうしちゃったんだろ」

『サンディーも色々考えて行動してるんだよー』

「でもサンディー苦しんでる。ネジがお腹で詰まってるみたいで、痛がってるけど病院には行きたくないって言うし…」

心配が離れてる分、もっと大きくなってきた。
「フレイム、せっかく来てくれたけど、サンディーの所に帰るね!!」

ガシャンと音を立てフェンスから地面に着地成功。
早くサンディーに会いたくて。

『あ〜まってまって。コレ持ってきな』

フレイムの手の中から、ボワンとピンクのキラキラした煙が沸きでた。
煙がはけて、そこに残ったのは、液体が入った5センチ程の小さな瓶。

『サンディーのお腹の薬、これ飲ませたら良くなるよ』

フレイムはニカっと笑い僕に瓶をくれた。

「サンディー喜ぶよ、…ありがとね」

『そういう思いを、心の部品って言うんだよ、きっと』

フレイムは僕の頭を撫でながら言った。

「?」僕にはその意味が分からなかった。
フレイムに別れを告げ、屋上を駆け降りた。


ディニーがいなくなった屋上で一人、フレイムは、
前にサンディーが内緒で教えてくれた事を思い出した。

「あのね、最近ディニーの泣く数が減ってきたの」

それはとても
喜ばしいことだった。
でもサンディーは
少し複雑な顔をした。
ほんの一瞬だったけど。


フレイムは、ふと現実に戻り月を見上げた。

『そろそろお別れかなぁー』

と呟き屋上から姿を消した。

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