図書館に行こうとアパートのエントランスへ向かう途中の階段で、凄く重たそうなトランクを持った人がいた。

「あー。荷物詰めすぎたー。これ以上歩けねー。」

と呟いてる人は、上段にいる私に気付いたのか、顔を上げこちらを見た。
そしてその人は言った。

「よぉ、サンディー久しぶり」

その人は、前髪で左目が隠れてて、顔全体が見えない。
誰だろ…。
片目しか見えないと、こうも誰だか分からなくなるものなのかな?
一生懸命記憶を辿っていくと…ある人が浮かんだ。

「あ、オスカー?…ですか?」

返事を待つ私に、少しタレ目の柔らかい笑顔が

「ただいま」と言った。



「お帰り。久しぶりだね、髪が伸びてて分からなかったよ」

私は階段を下り、オスカーに近づいて挨拶をする。

「サンディーお願い、トランクを部屋まで運ぶの手伝って。。異常に重くって」

このとーりって両手を合わせてお願いのポーズ。

「あ、いいよ。手伝うから、拝まないで」

そしてトランクを横にして、二人で両側から抱えて運ぶ事にした。

「う、本当に重いね。。何が入ってるの?」

階段を上りながらオスカーに問いかけた。

「うーん、思い出とか?」

「あぁ、思い出って重そうだもんね」

そうか、そうかと納得した後

「ごめん。今のウソ」

と言われた。

「…あっ…そ」

結局何が入ってるかは教えてくれなかった。

「二人に、ちゃーんとおみやげ用意してるからね」

話しをしながら、無事オスカーの部屋に着いた。

トランクを置いてオスカーが、

「飲み物用意するからテーブルについてて」

と目線をリビングに向けた。

うん、と返事をした後、今日はもう図書館はいいかな、と思いながらテーブルに向かう。

椅子に座って部屋を、ぐるりと見回した。
住まなくなって随分経つと思うけど、部屋は綺麗なままだった。誰かが掃除に来てるのかもしれない。

「お疲れさま、はいどーぞ。本ー当に助かったよ」

そう言って目の前にオレンジジュースを置いた。
出されたジュースを飲む。
オスカーは私の向かいに座る。
頬杖をついてオスカーは私を見て言った。

「二人は相変わらず、感情欠落人間のまま?」

沈黙の中オスカーは続ける。

「少しは良い方向にいってるの?」

私は笑って、

「うん。全然変わらないよ。何もなかった時に戻れると、最初は思ってたんだけど、そう簡単にはいかないみたい…」

「まぁ、それもそうだな。でも元気そうで安心した」

優しい表情のオスカーは昔と全然変わってなかった。

「やっぱり変わらないといけないのかな?」

「二人の場合は分かんないけど、良い所を残したまま変わっていくのが一番いいんだろうけど」

「いい所か。難しいね、ソレ。…できるかなぁ」

「そりゃそうだよ。
やれって言われて、出来る自信は、
オレも全くないよ」

そうだよなぁ。とボンヤリしながら、ふと気になった。

「ねぇオスカー?旅に出るって楽しい?」

「…え?旅?
サンディーが旅!?
何?旅に出たいのサンディー?!」

凄い勢いで、テーブルから身を乗り出してきたので、
…ち…ちかい。

「や、行きたいとかじゃなくてね…楽しいのかなって」

焦った私は両手を振って、違う事をアピールする。
オスカーは少しテーブルから離れて、考えながら言った。

「うん、そうだな。楽しいかか…。
自分と違う誰かに会うのは、楽しい事ばかりじゃないのは確かだけど、
それを差し引いても世界を廻る価値は、
絶対にあるよ」

オスカーは続ける

「案外サンディーも旅に出てみたら、良い方向に変わってくかもよ?」

私は…ダメだ。

「ううん、私は知らない人に会って知り合っていくなんて、怖い事、絶対に出来ないよ」

私は首を左右に振る。

「世界はサンディーを傷付けたい奴らばかりじゃない。安心していい」

オスカーが、そう言ってくれたが、

「私には、やっぱり無理だよ。私はすごく臆病者だから。
…ディニーから離れられないのは、私の方かな。
ディニーが変われないのも、私のせいかもしれない」

何だか段々、自分の存在がディニーにとっての「悪」みたいな気になった。

オスカーは笑いながら言った。

「離れる必要はないよ。サンディーが変わればディニーも変わる。
その逆もしかり。
少なからず、良くも悪くも成長していくもんだよ。」

「あっ」

とオスカーは小さな声を上げて、何か思い出したように、
さっき二人で運んだトランクの中を漁りだした。

少しして、

「お土産あげるの忘れてた。
ハイ、コレ」

オスカーから渡されたのは、ワインレッドのベロア生地のリボンが、かけられた本だった。


渡された本を見ると、
【著者 OSCAR LINKS】と記されていた。


「私、オスカー旅人だと思ってたけど、
小説家だったんだね」

そこにはヘラっと笑うオスカーがいた。

昼過ぎにオスカーと会って、気付いたら夕方で、
ディニーが心配するから帰る事にした。
オスカーに夕飯一緒に食べよって言ったけど、他に約束があるからって。


「明日、ディニーにもお土産渡したいから、オレの部屋に来てーって伝えといて」

伝言を預かって、オスカーの部屋を出た。

PM17:45
自分の部屋が見えて来た時、ドアの前でうずくまってる、よく知ってる人を見つけた。
私の足音に気付いたディニーは顔を上げて、
近づいてきて、

「べ…別に心配してたんじゃないからね」

と言った。

私は驚いてた。
ディニーが泣いてなかったから。
涙はたまってたけど、泣いてなかった。

ディニーは変わろうとしてる。
そう思ったら、嬉しいけど、少し悲しく淋しく思う自分が嫌で堪らなくなった。

自分は何ひとつ変われていないのに。

「何?それ?」

そう聞かれて、オスカーからのお土産と説明した。

伝言を伝えたら、

「…えー。何くれるのかなぁ。本はヤダなぁ。
朝起きれたら行ってみる」


ねぇ、ディニー。
きっとあなたは、
泣いて怒るだけじゃなく、
笑顔を見せてくれる日が、
もうすぐ来ると思うんだ。


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