差し延べられた手



かなりの抵抗も虚しく腰あたりまで伸ばしていた髪は、
肩につかない位まで短く切られてしまった。

金色の綺麗な長い髪が素敵な母さんの真似をして伸ばしてたんだけどな…。

私の髪色は父さんに似て茶色だけど、
髪を伸ばせば母さんみたいになれるかなってひそかに信じてた。

この思いはディニーにも内緒にしてる。
だってディニーは綺麗な金色の髪で、
母さんにそっくりなんだもの。

例の如く働かされて、やっと冷たい寝床へ向かっていた夜も更けた頃。

寝床と言っても掃除道具を入れてある暗い物置なので、ベッドも布団も無い。

物も多いため場所がなく膝をかかえて眠らなければいけない。
そんな場所に帰りたくない。

それに今日は、
あの男は夕方から外に出かけたと他の家政婦が喋っていたのを耳にした。

あいつが居ないという事は、少なからずディニーも平穏な夜を迎える事が出来るだろう。

ぼんやりと、そんな考え事をしながら廊下から中庭の見える窓の外を見ていた。

今日は大きな月が昇っていて、その淡いけれど強く照らす光のおかげで、
広い中庭の花園がうっすらと色を浮かび上がらせていて幻想的な夜。

何かの気配を感じ視線を中庭から、長い廊下に向けた。

明かりのついていない廊下は暗く、隣りと同じ間隔に並んだ窓から月の光だけが緩く差し込む程度。

誰だろう…こんな時間に。

人影らしき気配は、どんどん近づいてくるが、暗くてまだ顔が見えない。

私はだんだん怖くなってきた。

後退りしようとするが、両足がすくんで動かない。

月光が洩れる、その場所に差し掛かった気配の主に淡い光が当たった。


『やぁ、今晩は。ご機嫌いかが?』

私は見た。
体は人間、真っ黒の長いマントを纏い、頭から生えた猫の耳。
黒い猫の鼻。
大きく揺れる長い尻尾。
左側は眼帯をしているが右は鋭ぐギラりと金色の瞳。


『あらら。固まらないでよ。僕はね、フレイム。宜しくね』

フレイムと名乗る謎の生き物は、私に近づいてくる。
そして私の目の前に手を差し延べた。


『ほら、座り込まないで。夜は短いんだから。時間が無くなっちゃう。』

いつのまにか腰を抜かし廊下にへたり込んでいた私に“つかまって”と促す。

つかまった手はワインレッドの手袋をはめていて、
人の手の形だったので少しほっとした。

フレイムと名乗る謎の生き物に起こされ、私はまだ目の前の出会いが信じられず、
まじまじと全身をなめ回すように見ていた。


『ちょっ。止めてよ、恥ずかしーじゃない。あんま見ないでよ』

と両手で顔を隠しながらも、
くすぐったそうに笑うフレイムに、
私は少し心が解れていた。

「あの…私はサンディーです。フレイム…さんは、何者ですか??」

ぷふっと軽く笑いフレイムは言った。

『今日、サンディーが呼んだじゃない。だから来たの』

何を言ってるのか分からない呼んだつもりもない…。

困惑している私を見てフレイムがまた声をかける。

『助けて。神様でも悪魔でも魔女でもいいからって。思い出した?』

ニヤリと笑うフレイムは月明かりに照らされて、何だかとても綺麗だった。




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