祈りと呪い


あの地下室での惨劇で絶望と無力さを我が身を持って痛感してから既に、
二ヶ月が過ぎようとしていた。

その日々の間にも男はあの地下室、
私の目の前で夜ごとディニーを犯し続けていた。
ディニーの綺麗だった濃い青色の瞳は何も映さないように虚ろを仰ぎ、
涙色に淀んでいく。

限界の針はとうに振り切れている。

私のせいでディニーに足枷をはめてしまった。
この噛み潰すことの出来ない贖罪の念は、心の中でひたすらにディニーを想い続ける事しか出来なかった。

何でこんなことになったのか?
父さんと母さんが交通事故に遭い、
死んだと言う知らせを受け呼ばれた病院に行こうとした時、玄関のベルが鳴り私は扉を開けた。

そうだ。
そこに立っていたのは、あの男の執事。
口を塞がれたと思ったら意識が切れてしまった。
次に目が覚めた時には、あの地下室。

地下室に閉じ込められてしまったディニーとは違い、私は屋敷の家政婦として早朝から晩まで働かされていた。


「ちょっと!新入り!来な!旦那様が呼んでるわよ!」

怒鳴りながらこちらに近づいてくる声の主は私を見つけた途端、
私の後ろで一つに結んでいる髪の束を思いきり掴み上げた。

「なーにやらかしたんだか。ほら早く行きな!食堂で旦那様が待ってるよ!」

意地悪く嬉しそうに笑う女は引っ張っていた私の髪を、力まかせに地面に振り落とした。
その勢いに負け私は床に倒れ込んでしまう。

「…痛っ」

この屋敷の人間は男女、
年齢問わず腐り切った奴らばかりだった。
私は蹴り上げられるのを恐れ、立ち上がりその場を後に渋々食堂へ向かった。

日々の課せられる労働と、
いわれない暴力に加え碌に食事すら与えられない体は、栄養不足の為か、
だんだんと力が入らなくなってきている。

でもこの心だけは折ってしまう訳にはいかない。

自分を叱咤し気合いを入れ食堂のドアを開いた。


「遅いぞ…。ここにくるだけで何分かかってるんだ。
まぁいい。これを見ろ。」

食卓に並べられた豪華な料理のスープ皿から、
器用に白い布巾を使い長い髪の毛を一本取り出した。

遠くからで色までは分からなかったが…どうやら私の髪の毛という事にしたいらしい。

「こんな物はもう食べれないな…
誰のせいで、このスープは無駄になった?
……ふふ。
サンディーその長い髪の毛、切り落としてやるよ」

とっさに逃げようとした私を察し素早く動いた執事に、
あっけなく捕まってしまった。

「やっ…やめっ!」

誰か助けて!

もう誰でもいいから!

神様でも!駄目なら悪魔でも!魔女でもいいから!!

誰か私達を助けてください!



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