傷つく心


僕は抵抗する暇さえなく、あっさり大柄な男に捕まってしまった。

この男は僕を押さえ付けていた男の執事だろうか?
白いカッターシャツに光沢は一切無い漆黒のタキシード。

見上げた男の目は驚く程に冷たい。
感情など捨ててきたのだろうか、
瞼ひとつ動かさずに、
僕を掴む腕に容赦など皆無。

「ディニーを…はなし…て…」

叫びすぎて掠れ消え入りそうなサンディーの声は、この陰湿な地下室に、
すんなり飲み込まれていく。

サンディーは拘束されながらも足の鎖がギリギリ届く位置にいる執事らしき男の足に纏わりつく。

「……」

眉ひとつ動かさず無言のままに、
ドカッとサンディーの腹を蹴り上げる音が僕の肩を揺らす。

「ゲハッ…はぁ、はぁ」

サンディーは小さな身体を丸めると、
きゅぅっと縮こまり、ごぼりと口から血を吐いた。
息がだんだん弱くなってきている。

……サンディーが死んじゃう……。

涙で視界が滲んでサンディーが見えなくなる。
それはとても卑怯な事なのは、
頭の隅では分かっている、
だけど涙が溢れて止まらない。

「ディニー、このままだと、サンディーが死んでしまうのは、分かるね?」

僕が突き飛ばした男はベッドの上で胡座をかき、
僕達に薄気味悪い笑みを向け言った。僕の心と頭の中はグチャグチャだった。
サンディーを助けたい。
でもそれによって僕は一体どうなってしまうのか?
怖くて怖くて堪らない。

ベッドの男は話を続けた。

「よく聞くんだよディニー。
君が私のものになってくれるなら、サンディーは殺さないでいよう。
さぁ、どちらか選ぶんだ。
サンディーを見殺しにするか、
サンディーを助けるか。
君次第で彼女の運命が変わるんだ。
考える余地なんてない…
どのみち君は、私のものにならないと
どうにもならないんだから…ふふ」


ねぇサンディー。
僕の声、聞こえてる?

僕、男の子なのにサンディーの真似して腰まで髪の毛伸ばしたり、
同じ服を着たりするのもサンディーが大好きだから。
サンディーの後ろばっかりついて廻るのも、
サンディーが一人で、どっかに行ってしまわないように。
僕の前から居なくならないように。

サンディーが悲しんでたら僕も隣で涙を流せるように。

サンディーが過ごす時間を僕も同じに感じたいから。

僕はサンディーを助けることが出来る?

僕はサンディーの王子様になれる?

傷だらけで倒れているサンディーを
僕は救うことが出来る?

だったら僕は

どんなに堕ちても構わない。

「いい子だ。ディニーを離してやれ。」

僕の決意の表情を読み取ったのか執事に掴んでいた手を離すように指示を出した。

「い……いっちゃ…ダメだ…よ
ディ…ニー…
いかない…で」

倒れているサンディーは力を振り絞り、
僕を行かせないように懇願する。

僕はその声を胸に抱きベッドの男の方へ歩き、
そして捕まった。

まるで蜘蛛の巣に自ら飛び込んだ蝶々のように。

そしてこれから始まる恐ろしい行為に必死に耐え続ける事だけを考えていた。

「あぁ、そうだ。サンディーにも見ていてもらおうか…
僕達の身体の絆の前には、
君の入る隙など無いって所をね」



あぁ僕達は
大切なものを
守りたかっただけなのに
何ひとつ守れずに
互いを壊しながら
闇の中を
走り続ける
失速したら
僅かな心も失くなってしまいそうで

残していた心に
僕は静かに蓋をした。




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