フレイムとの再会


フレイムと約束をしたあの地下室の日から、私は月が出る夜を待っていた。
あの不思議な友人に会える日を。
ここ最近、雨や曇りが続き月の見える夜がこなかったから。

「サンディー、なんか招待状がきてる」

フレイムの事を考えながらサクラの飼っている青い小鳥に餌をあげている時だった。
部屋にこもっていたディニーが、招待状を片手にやって来た。

「招待状?」

パーティに呼んでくれるような知り合いがいるはずもなく、
何だろうと思いながらディニーから招待状を受け取った。

クリーム色の上等そうな封筒に、
[Dear sundy]
とだけ書かれている。
差し出し人を確認するため裏を見る。
名前は書いていなかったが、
赤い蝋の刻印に猫のマークがおされていて、
私は待ちに待っていた友人からの便りに笑顔になる。

「ねぇねぇ、僕にも来てるんだけど、これなあに?
王子様へって書いてるけど」

招待状はディニーにも来ていたみたいで、
不思議そうに封筒を眺めている。
そしてディニーが封筒を開け始めた。

「今日、夜の屋上にて待つ 必ず来られたし」

内容を読み上げたディニーは首をかしげながら、

「果たし状…?」

「これはね、前に話した地下室から助けてくれた魔法使いのフレイムからの招待状だよ」


地下室という言葉に敏感に反応してしまうディニー。びくりと肩が揺れる。

「身体の一部を持ってかれちゃうんだよね…」

そうあの夜の約束。
助ける代わりに身体のどこかを差し出さなければいけない。

「大丈夫だよ、ディニーの身体は持っていかせない、絶対に」

「でもサンディーの身体もだめだよ。。」

「ここで考えても仕方ないか。決めるのはフレイムだもんね、助けてもらったんだから、
覚悟決めとかないと」

「サンディーは強いね。。」

ポツリと呟いてディニーは部屋にもどって行った。



そして約束の夜が来た。
サクラは残業で今日は遅くなるから先に寝ててと連絡があった。

私達は二人で屋上の階段を上り扉をあける。

漆黒の闇の中、見えるのは大きな月。
僅かな星。
そして長い尻尾をゆらゆら揺らしながら宙を浮かぶ魔法使い。

絵本にでてくる挿絵のような光景。

「あ、空飛んでる」

ディニーは不思議そうにしていたが、その顔は無表情のまま。

ふわり近づいてきたフレイムは言った。

「ご機嫌いかがかな?王子様」

笑うと見える牙が二本。

「良くも悪くもないよ」

無愛想に答えるディニーに、フレイムは自己紹介をして、本題に入った。

「さて、サンディー。覚えてる?あの約束」

私はひとつうなずいた。

「では!!!さっそくっ!!」

フレイムが叫んだ瞬間。
ディニーの腰まで伸びた金色の髪が顎のあたりで、ばさりと切れた。
切れた髪は地面に落ちることなく綺麗な束にされ、ひとまとめでフレイムの手の中に収まった。

「いただきました。これで契約は成立した」

きょとんとしていたのは、私だけではなかった。

「身体の一部って言うから、腕とか足とかと思ってた…」

ディニーが言葉をこぼす。

「わ、私も……すごく怖くていろいろ考えてたのに」

「肉体なんて取ったら二人ともこまるでしょ?
せっかく助けたんだから。
友達にそんなこと出来ないでしょ」

笑いながらフレイムは言った。
友達だと。
こんな嬉しいことはない。

「う…うん。ありがとう」

「魔法って便利だね…僕にも使える?」

ボブヘアーになったディニーはフレイムに近づいて行く。

「うーん。ディニーやサンディーは使えないよ。
理由は言えないけど存在が違うって感じかな?
魔法使いは煙みたいなものだからね」

「フレイムはここに存在してるのに形がないってこと?」

「うーん。そうだねぇ。形もなければ色もない。結構あやふやな存在って感じかなぁ。
だから二人が羨ましいよ」

笑いながら喋るフレイムは少しだけ淋しそうだった。

「そーだそーだ、忘れちゃいけない。コレコレ」

フレイムは何かを思い出し、両手のひらを合わせ、そこからこの月明かりの中でも見える、モクモクしたピンク色の煙をだした。

そして出てきたのは。

「はい。これも約束の内。
フレイム特製ドーナッツ。
おいしーんだなぁコレが!!」

あの夜くれたドーナッツだった。
ディニーに食べさせてという約束を覚えていてくれた。
ドーナッツを手渡し、ディニーにが受け取った。

「やっぱり魔法って便利」
ディニーはドーナッツを頬張りながら無表情なりに感心している様で、すっかり魔法の虜になっているみたい。

「さてと。
約束も果たしたし、月が隠れそうだからそろそろお別れかな?」

目を細めて月を見上げた。

大きな雲にかかりだした月は光を失いつつある。

「では、みなさん。
良い日々を!!
またお会いしましょ」

そう言い残しフレイムは煙となって闇へと消えて行った。


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