その理由
「旅人?シラナイノ?」
オスカーはディニーにまぬけた声で問う。そして何故か片言。
「しっ…知ってるよ!あっちこっちフラフラする人でしょ!?」
ディニーは、知ってるもんねーといった感じで、ふふんと鼻で息をする。
「アバウトだなぁ。行き当たりばったり的な部分は当たってるけどね。
そだなー、この国を出て世界を巡ってるんだよ。
色々な人に知り会って、会話して。
人だけじゃないよ。
その土地の空気や景色、文化に触れる。
そこから生まれる感情とかは、ここにいただけじゃ、生まれないままだからね」
ディニーの頭を撫でながらオスカーは喋る。
ディニーは訳が分からないといった顔で、頭上にハテナを飛ばし、オスカーから撫でられるがままになっている。
私はオスカーの、その世界を巡る話をもっと聞きたくなった。
「じゃあ!じゃあ!なんでオスカーはここにいるの? 旅は!?」
とりあえず浮かんだ疑問をぶつけるディニー。
オスカーは、空を見上げて、
「サクラに会いたくなったから、だから帰ってきたんだよ…ってあれー?」
ディニーは向かいに風船を売ってるピエロを見つけ、走り去っていた。
チラリと後ろにいる私を見たオスカー、一部始終を見ていた私は苦笑いしか出来なかった。
二人でクスリと笑い、走ったディニーを追った。
走りながら私はオスカーに、
「ねぇ。今言ってたのって本当なの?
サクラに会いに帰ってきたって」
道路を渡り切ったオスカーと私は少し息を切らしながら、
ゆっくり歩きはじめた。
オスカーは、ふーぅと深呼吸して、私を見て笑った。
「さぁ。どうだろねぇ。
…でも帰って来たから、君達に会えた。
俺はね、この街が好きよ。色々あったけどね。…ここにいる理由は有りすぎるんだ。
だから、ここから離れたくなるんだ」
オスカーは何を想い口にしてるか、私は分からない。
それは、この先も分からないかもしれない。
けれど、私はオスカーの気持ちが少しでも分かっていければいいのかな。とオスカーを見ながら思った。
オスカーは私を見て、目を細めた。
「変な心配しなくていいよ。俺とサクラは友達だから。」
ニヤリと笑うたれ目が私を見る。
「うん。分かった。
ねぇ、私達もオスカーの友達?」
オスカーの服の裾を引っ張った。
「もちろん。二人は会った時から俺の大切な友達だ」
オスカーは私に右手を差し出す。
私はその手を握り、ディニーが走って行った場所へ急いだ。
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