土曜日の朝



朝食を食べて少し落ち着いたディニーは、今お風呂に入っている。
私とサクラは食事の後片付けをし終わり、また元の席に着いた。

「話辛いと思う。でも聞かないといけないんだ。」

と難しい表情を浮かべたサクラは私を見た。

「聞かないとね。私も前に進めない。きっとサンディー達も、そうだと思う。」

今度は強い意思を持った目で私を見た。

私は考えていた。
自分の事。
ディニーの事。
フレイムの事。
父さんと母さんの事。
そしてあの悪夢の日々を。

自分は名乗らないのは失礼だね。って苦笑いしながら、考えこんでしまった私を尻目にサクラが話し始めた。

サクラは役所の児童虐待部署で仕事をしている事。
昨日の夜、残業帰りに役所の前で行き倒れていた私達を見つけた事。
恋人はなく、このアパートで一人暮らしをしている事。
飼ってる小鳥の名は【ピクルス】ということ。
そして私は、
今まで起こった恐ろしい出来事をすべて隠さずに話した。

「…そっか」

サクラは短く言うと、席を立ちいきなり私を抱きしめた。

とても…とても安心した。
この柔らかい温もりに、
でも
でも
なんでだろう。
嬉しくてホッとして泣きたいのに。

…泣けない涙が出ない。

あれ…。
フレイム…。
涙を持って行っちゃったのかな?
今度会った時に、体の一部を貰うって言ってたのに。
流せない涙の変わりの、この感情は何だろ。
分からない。

フレイムなら分かるのかな?
今度会ったら聞いてみようかな。

「ねぇ。これから私達、どうしたらいいのかな…?
まだ12歳だし、働けないし、帰る場所ない…」

サクラに問い掛けながら、自分でも悲しくなった。
サクラは昨日会った他人。
でも頼れるのはサクラしかいない。

「お風呂ありがと」

さっぱりした顔のディニーが、やっぱり少し大きめの洋服を着て出てきた。

「大丈夫。話は分かった。
今日は土曜日だからね、月曜日に色々調べてみるから。
今日、明日はゆっくり過ごそう。
不安になる事はなにも無いから」

サクラは私達に言った。何だか、父さんを思いだした。

父さん母さんが亡くなって、初めて信頼できる大人に会ったと、私は思っていた。


:夜の不思議fin.


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