月の秘密


chapter8:月の秘密

無事に屋敷を出てから数十分走り続けて、フレイムが徐々に走る速度を緩めて、振り返り私を見た。
そろそろ歩こうか、という気配がしたので、私は後ろを気にしながらフレイムに合わせて、ゆっくり歩き始めた。

『油断は禁物だけど。もう大丈夫そうかなー?
残念だけどね。僕はもうここまでしか一緒に行けないんだ。そろそろ…お別れ。』

フレイムは少し目を細めて夜空に浮かぶ月を見た。

―…そういえば、月夜にしか出歩けないって言ってた…―

思い出した時には、今日、三度目の私の頭を軽く優しく叩く掌があった。

『そんな顔しなーいの。大丈夫ここから先は君達が安心出来る世界がある。
僕には分かる。絶対だよ約束するよ。』

フレイムが俯いた私を覗き込み、優しく微笑みかける。
ふとフレイムとの約束を思い出した。

「あ…体の一部あげないと!!
助けてくれたら!約束守らないと!」

どの部分を持っていかれても、私はきっと大丈夫。
何故だかそう思えた。

『あの約束、また今度会った時にするよ。
王子様も意識が無い事だし。お互いに自己紹介したいしね。 それにまたサンディーと会う口実が出来るでしょ?』

フレイムは、ニカっと牙を見せて笑いながら、少し照れているみたいだった。

『サンディー…?大丈夫。また月夜の晩、二人に必ず会いに行くから。
でもその時は体の一部貰ってくから、覚悟しといてね。』

私はフレイムに抱きついていた。
最後に少し怖い事言っても、何だか冗談を言ってるみたいに優しく聞こえる。

『さーて。本当にお別れ。ここからはサンディーがディニーを連れて、
真っ直ぐ、ひたすら真っ直ぐに力尽きるまで進むんだ。
そしたら、今までと違う世界だよ。』

フレイムは、背におぶっていたディニーを静かにゆっくり私に渡した。

「フレイム…本当にありがとう。
またフレイムが来るの待ってる。
あと…王子様の名前はディニーだよ。
次に会う時に、名前呼んであげて」

私はフレイムにお礼を言って、さっき言われた通りに、この道を真っ直ぐ、真っ直ぐ意識のまだないディニーを肩に寄り掛からせ走りだした。

何となく心細くて振り返ったら、そこにフレイムの姿は無かった。


大きな月だけが見ていた、私達の秘密。
そして私は、とても寂しい気持ちでいっぱいだった。


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