ドーナッツ



「あ…の…フレイムさんは悪魔なの?」

恐る恐る尋ねる私は、やっぱりまだ怖さが抜けない。

『フレイムでいーよ。ちなみに僕は魔女。元は魔女に仕える黒猫だったんだけどね…って…
ごめんごめん話が逸れちゃったね。
さて、何を助けて欲しいのかな?』

何か余計な事を言ってしまったのか、フレイムは謝りながら私に問い掛ける。


「地下室に私の弟が、この屋敷の主人に閉じ込められてるの…。…弟を助けて欲しい」

フレイムは話を聞いているのか、私をじっと見てる。


『よし分かった。でも交換条件がある。君達を助けたら、どちらかの体の一部を貰っていくよ』

どうする?

とフレイムの金色の眼が月明かりでキラキラと光っていた。


「もちろん。私のどこでもいい。あげるから、お願い助けください!」

これが夢だったら、どうしよう。
無性に悲しさが込み上げて来たが迷ってなんていられない。


『ん。了解した。弟助ける前に、ホイ』

フレイムの手の中でピンク色の煙がボワンと上がる。
煙からは、なんとも甘い匂いが私の鼻に届く。

『腹が減っては戦なんて出来ないのよ。ほーら。』

そう言って手渡されたのは、
美味しいそうな粉砂糖のついたドーナッツだった。

「あ、ありがとうございます」

ちょっと上ずってしまったけど、
ちゃんとお礼を言ってドーナッツを食べた。
私のお腹が空いていることも分かってしまうし、ドーナッツも本物。
フレイムは今私の前に存在している。
尻尾の生えた神様に見える。


『どーぉ?美味しい?僕の自信作。』

このドーナッツは、色んな味が身体中に染み渡り優しい気持ちが広がった。


「フレイム…あのディニー、
あっ弟のディニーにも、これ食べさせてくれる?」

ディニーは出された食事にはほとんど手を付けていないと、あの男が言っていた。
ディニーもお腹が空いてるだろうな。
そう思うと、胸がジワジワと締め付けられる。

ぽんぽんと、とても優しい手が安心させるように、
私の頭を軽く叩いた。


『もちろん。さぁ行こうか。僕はね、月の出る晩にしか出歩けないんだ。
朝になる前に逃げよう。
地下室まで案内して』

私達は、夜の廊下を静かに走り出した。
誰にも見つからないように。
誰にも邪魔されないように。

地下室へと走りながら、ひたすらに、

これが夢でありませんように。

フレイムが夢でありませんように。

私は、そればかりを祈っていた。




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