空からやってくる奴なんてどうせ妖怪の類いだろうと、
俺は全く無関心だった。
だが黒髪の男は素早く動き空から落ちてきたピンク頭をドサリと受け止めた。
そうすることがまるで当たり前かのように。
おぉー。人間のくせに凄いじゃん。
なんて思っていたら落ちてきた奴は俺から見てもとても奇妙だった。
第一、妖怪特有の匂いがしない。
「ちょっとトーバ大丈夫?
腰、死んじゃったんじゃない?」
ピンク色の子供を抱えてトーバと呼ばれた奴は、
死ぬわけねーだろ、クソ女。
と悪態をついた。
同居人なのに仲が悪いとは大変だな。
「にしても…君、背中から羽根が生えてるけど…作り物?
もしかして羽根作ったら空が飛べるかなぁーって思ったとか?」
「バカか、このビルも何もない所から降ってきたんだぞ」
「バカって言うんじゃなわよ!私だってちょっと混乱してんのよ!察しなさいよ」
わーわーぎゃーぎゃーとまぁ、
よく喋る。
まるでえとらと蒼松が喧嘩してるみたいで少し笑えた。
その時トーバに抱えられていた奴は慌てた様子で叫んだ。
「あっ!斧がない!!」
「「斧?」」
二人が同時に口を開いた時、
ブンブンブンと重たそうな物が凄いスピードで回りながら落ちてくる音が聞こえた。
「えっ!あ!待って待って避難避難!」
慌てる女をよそに斧はどんどん落ちるスピードが早くなる。
「あぶない!」
条件反射で全員が目をつむる中。
斧は俺の右手におさまっていた。
「…まさかアレ素手で掴んだのか?」
トーバは俺を見て驚きながら何ていうか、
人間じゃないモノを見る目で俺を見てた。
「あぁ。これくらいどーってことねーよ」
だから俺は、取れない方がおかしんじゃないか?位のドヤ顔で言ってやる。
「にしてもよ、だんだん人が増えてきたぞ」
俺が指摘すると三人は周囲を確認する。
まばらだった人の数も、
この騒ぎを聞きつけてやって来たようだ。
「ねぇ、ぼく!これ着て!
取り合えずお巡りさんが来る前に静な場所に移動しよう。
ホラ、トーバ急いで!
金髪大男!アンタも来なさいよ!」
自分の着ていたコートを素早く脱ぎ、
抱き抱えられているピンク頭の上に被せながら、
俺を見て言う。
「待てよ、俺は関係ないだろ。
ラーメン食べに行く途中なんだよ」
動こうとせず傍観者を決め込んでいた俺に女はこう言い放つ。
「関係なくないじゃない。
あなた今、斧持ってるでしょ?」
右手に持った斧を眺めた後、
また女を見ると…
嫌味の一切感じられないカラリとした笑顔だった。
これから始まる展開をどこか楽しんでいるかのように。
そんな彼女に俺はまぁ、
ラーメンは後回しでも良いかなという気にさせられた。
全く、不思議な人間もいたもんだ。
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