空は群青日和。
その日、一匹の羊が死んだ。
事故だったのか病気だったのか…
それとも自殺だったのか原因は知らない。
はっきりしているのは、
羊は羊飼いを残して、
いともあっさりするりと天国へ逝った。
という現実のみ。
俺の体中は穴だらけ、
くっぽりとあいた俺の隙間をひゅーひゅぅーと寂しの風が通り抜ける。
やけに耳につく音の軍隊どもに俺は苛立ち最高潮。
それに加え坊さんのやる気のない念仏。
これじゃ羊は天国への門にすらたどり着けない。
俺は坊さんを横から思いっきり蹴り飛ばし、
唱えたことのない念仏を羊に聞こえるように叫んだ。
「ってゆー夢見た。」
夢オチですかーって心の中で落胆した、
金曜日の放課後。
誰もいない屋上でふたり。
真剣な顔で話し出すから何事か?なんて少しでも心配した自分がアホらしい。
だって結果がこれだもの。
「まず言うと。
ぼーさんのユルい念仏で天国へ行けますから余計なことしないでくれますか」
「俺の念仏の方が早く着く」
「スピードの問題じゃないし。どうせ南無阿弥陀仏しか言えないんでしょう」
隣の彼からプイッと顔を背けて空を見る。
「それが…正夢だったら…」
「羊はな、飼い主の許可なしに死ねないの」
顔をグいっと回されて合うのは真剣な瞳。
こんな顔も持ってるのか…
まったく不思議な人だ。
「生き死にに許可を求める人生なんて終わってる」
バカらし。
少し苛立ちを感じてしまう心に問う。
“羊飼いがひつじを殺すのか?”
“ひつじは群青空を眺めながら死にたがり続けるのか?”
“あれ?自分なんで羊目線で考えてんだ?”
「自分が人間だってこと…忘れてた」
苛立ちの原因にたどり着いた。これだ。
「どんな死に方よりもお前に殺されるならましかもな」
群青を見上げて彼は言った。
「殺人犯にしないでもらえます?」
何を言い出すんだ、この人は。
「例えばだよ。たとえば。」
今日はなんだか様子がおかしいな。
「じゃあ正夢ならまさに今がうってつけ」
「飛ぶのか?」
「死ぬなら底抜けに明るい群青の日がいい」
現実味がないせいで不思議と怖くはなかった。
そう、今ならば飛べる気がした。
「ひつじが飛ぶなら俺も飛ぶ。
天国でも一緒だ」
その一言ですべてがぶっ飛んだ。
「勘弁してください。死んでまで一緒だなんて」
嫌そうに彼の顔を見た。
でも彼はとても嬉しそうに笑っていた。
これだから嫌なんだ。
………と心にまで嘘をついてしまう自分に苦笑いした。
群青日和。
一匹の羊と一人の羊飼いは今日も空を見上げています。
終わり。
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