昼休み。
少しでも静かな場所を目指してさ迷う姿は
さながら羊のよう。

「ひつじー。また本読んでんのか?」

人通りのまったくない西棟の端の端の階段。
まさか見つかるなんて思ってもいなかった。

「難しい本かと思ったら漫画かよ」

手元の文庫版手塚治虫傑作集をぶん取られた。

「何で居場所分かるんですか、毎回毎回気持ちの悪い」

この人はクラスも違うのに何故か必ずやって来る。
…発信器とかつけられてるのかな。

「お前の飼い主だからに決まってら」

「まったく答えになってないですけど」

そのうち漫画を読み始め彼はそちらへ集中。
もちろん自分から話すこともない。
誰も喋らなくなった秋の空気漂う空間は静かだった。

「なぁ。俺と付き合えよ」

ポツリと二段下に座っている彼は、
漫画から目を離し前を見て言った。

「ズーフィリアじゃあるまいし」

「なにそれ」

「動物に欲情する性癖」

「なんでそんなん知ってんの?もしかして…」

「違います」

バッとこちらを振り向く顔はにこやかで、
遠目からの廊下や移動教室途中に彼の教室で、
男子生徒に囲まれているのとは違う気がした。

「返事は?もちろんOKな」

付き合う?恋人?手繋ぐ?キスする?セックスする?

…この人と?

「お断りします。よそを当たってください」

「お前は頭が固い。どんな構造してんだ?」

「覗いてみます?」

「できるのか?!」

「そんなわけないでしょう」

あーズルい…ズルいよなぁ。
ここでキスしてくるなんて最悪だ。

「口から覗けた」

バカいってんじゃねー。
あ、予鈴鳴った。
あと5分。
なのに彼はキスを続けた。

いつもこんな風にキスするのかと思ったら、
微妙に揺れた心。

羊飼いと秋の空、
死にたがりの羊には、
その心はかり難し。

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