「ニッカ、ありがとう。
もういいぞ、遊びに行っておいで」

木材をアトリエに運んでもらう作業を終えた俺は、
手伝いをしてくれていたニッカに声を掛けた。
ニッカが男になり、
予想外にもたくましい少年に変わった時は、
力仕事は本当に助かった。

今はもう小さな少女に戻っており、
遊びに行ってくる!と元気に出掛ける後ろ姿をみていると、
やはりニッカは少女の方がいいと改めて思っていた、
その時。

ガタン…ガタン!

奥にある出窓から音が聞こえる。
なんだ?キコリーズの悪戯か?
そう思いながら音のした方へと歩いていく。

窓の外にいたのは…。
涙と鼻水を垂らしながら情けない顔をした朗朗がいた。

……正直なところ絶対中にいれたくない。

固まっていた俺に、これまた情けない声を掛けてくる。


「IQ!助けてくれよぅ…頭痛いし寒いし…」

涙ながらに訴える朗朗をこのまま放って置くと生涯怨まれそうだ。
俺は渋々中に入れてやる事にした。
足元おぼつかない朗朗に肩をかしながらアトリエの横の寝室へ連れて行く。


「は?風邪薬を盛られた?」

背の高い朗朗に寄りかかられると中々前に進むのも大変。
そしてようやっとベッドに朗朗を寝かせると、
事の次第を話し始めたわけだが。


俺に一番迷惑かかってんだけど。


「ねぇ…風邪ってどうなるの?気分悪いよ…」

悪魔は風邪を引いた事がないのか。
にしても打たれ弱すぎだろ…。
と内心呆れもしたが。
まぁ、自身に未知なことが起こってるわけで、
不安にもなるわな。


「横になって寝てたらすぐ治る。安心しろ」

揺れる赤い瞳の朗朗を気にしながらも、
額に手を当て熱を看る。
あ、結構高いな。
ショコラだいぶん根に持ってたんだな。


「IQの手…冷たくて…安心する」

どきり。

朗朗の熱で上がった手が俺の手を掴んだ。


「離せ。
俺の手じゃ、冷やせないからポルカに氷をもらってくる」

ポルカは少しだけ魔法が使える。
水を固めて額に乗せておけば気休めだろうが、熱の下がりも早いかもしれない。
何よりもこの掴まれている手のひらを離してもらいたかった。


「嫌だ、そんな事言って本当はもう帰えって来ないんだろ…?」

怯えているような、悲しそうな、俺を疑う目で見つめてくる。
イラっとした俺は空いてる方の手で無理矢理、朗朗の手をどけ言った。


「俺がお前を置いて行ったことなんてあるか?
俺がお前を待っていなかったことなんてあるか?
子どもじゃねーんだ、一人で俺が帰えってくるまで寝て待ってろ。
戻って来たら起こしてやるから」

その言葉に静かになった朗朗の瞳は驚きを隠しもせず、
熱で赤くなっていた頬がさらに赤くなっていた。


「IQが…俺に愛の告白してくれた」

は…??
告白なんてしたつもりないんですけど…。


「お前が手を離さないから言っただけだ、
告白なんて…」

していないと告げようとするも、
朗朗は真っ赤な顔のままニコニコしながらご機嫌で、


「俺、IQが氷持ってくるの一人で待っとく」

と子どものような嬉しそうに笑った。

あんな笑顔を見せられたら、
次は俺が赤くなる番。




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