初めて君に会った日。
俺の世界すべてがひっくり返った日、
なんだよ。


初めて地上へ足を踏み入れた俺は浮かれていた。
生まれてからずっと戦闘訓練やら強化手術やらを受けさせられていた俺は、
そう、この日のために生きていたんだと実感していた。

そう思わなければやっていけない現実だってある。

正直、浮かれてすぎていた。

魔女がこんなに強いなんて知らなかった…。
いや、誰も教えてはくれなかった。

「死んで…たまるか」

先程見つけた魔女を追いかけていた。
でも、罠だったなんて気付きもせずに、
自分が相手を追い詰めている、
優位に立っていると思い込んでいた。

出会い頭の総攻撃。

俺は生命ギリギリ生き延びた。
恐怖…血…痛み…憎しみ…悔しさ
歯を食い縛り走った。

無我夢中で走って走って、
後ろを振り返り止まった森の中、
現在地が…帰り道が分からなくなった。
初めて上がった地上は魔女の縄張り。
迷子になった悪魔なんて俺くらいだろう。


パニックになった俺は木の影に身を潜める。
見つかったらどうしよう…見つかったらどうしよう…
体が震えてカッコ悪い。

「!!」

俺の視界に入り込んできたのは、
俺を罠にはめた囮の魔女だった。
奴は一人でウロウロ歩いている、
大方俺を探しているのだろう。

迷った。
選択は二つ。
俺の浴びた恐怖を味会わせてやるか、
木の影で震えながらアイツが通りすぎていくの黙って見送るか…。

くっそたれ!!

「んぐ!」

意を決して飛びだそうとした俺は口と、
右腕を押さえつけられ後方に引っ張られ尻餅をついた。
だが、痛みはなかった。

そして俺を拘束していた手達は一瞬にして離れていき、
素早く俺の前に出た人物は魔女の方へと走って行った。


「なんだお前か、役立たずのクズが。
あの悪魔は見つけたのか?
まぁ、お前が見つけたとしても殺されるのが落ちだろう」

魔女はソイツに吐き捨てた。

「すみません…悪魔の姿はどこにも…」

小さな声で小さな背中で精一杯の嘘をついた。

「お前が死んだ所で誰も気にせん。
恥さらしは自害がお似合いよ」

その魔女は、蔑んだソイツの頭に唾を吐き去っていった。
「もう大丈夫ですよ!怖い人は行ってしまいました」

振り返り俺にまた近づいてくる…魔女。

「怪我なさってますね…応急処置しかできませんが…」

俺は触れそうになった魔女の手首を掴んだ。

「危害は加えません…から…怪我…!!」

喋る魔女を無視して俺は自分の袖口で、
かけられた唾を拭いた。
何度も何度も。
一度汚れたらものが綺麗にならないことは知っているのに、
俺は拭くことを止められなかった。

「優しいんですね、こんな怪我させたのに」

しょんぼりとうなだれる悲しそうな顔に、
ついつい笑ってしまった。

「魔女って色々なのがいるんだな!俺は朗朗」

「笑ってる悪魔は初めて見ましたよ、私はレイニーデイズです」


しばらく俺たちは笑っていた。
初めてのことばかりが嬉しくてたまらなかった。

「なんで役立たずって言われてたの?」

一通り笑い、
レイニーデイズが俺の傷の手当てを始めたので聞いてみた。

「私が…悪魔を殺せないからです」

きょとんとした俺にレイニーデイズは続ける。

「魔法や魔術がなんの為にあるか、
考えたことはありますか?
それは傷や病気を癒す為なんです。
でも皆…闘いに目を奪われすぎていて…
忘れている。
だから私は誰も殺さないし傷つけない。
同族からは厄介者の嫌われ者です」

えへへと笑うレイニーデイズに無性に腹が立った。


「笑うな、俺の命の恩人を…笑うな」

驚いて目がぱちっと大きくなったレイニーデイズは、
ありがとうと言って泣いた。


「ゲートはあの木の下ですよ、見つからないように帰ってくださいね…」

帰り道まで案内してくれたレイニーデイズは、
もう迷子にならないでくださいねと、笑った。

「俺はレイニーデイズとは立場が違う。
魔女狩りを止めることは死だ。
俺はまだ死ねない…だから魔女を…」

「考えて…くれただけで…いいんです。
それだけで…」

レイニーデイズは複雑そうな表情で、
必死に笑顔になろうと頑張っていた。
でも結局は歪んでいた。

ゲートをくぐった俺は、
もうレイニーデイズに会いたくないと思い、
レイニーデイズが他の悪魔と会わないことを願った。

絶対に死んでほしくないんだ…。


※朗朗が初めて地上へ上がった日の話。












TOP
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -