【ドクロの夢聞録】
夢を見た。
あれはノバリと初めて会った時だ。
オレは魔王を封印した代わりに、 死に値するほどのギリギリのダメージをくらって、 瀕死の状態で命からがら地底にある悪魔の国から抜け出した。 悪魔に見つかれば反逆罪で即処刑。 魔女に見つかれば悪魔という理由で即殺される。
ここで逃れられるかは本当に賭けだった。
殺されるのは戦争中だから仕方のないこと。 オレもたくさんの命を奪ってきた。 だからといって、この命を悪魔や魔女にくれてやるほど、 オレのプライドは低くない。
そんな事を考えながら、 どれくらい走っただろうか…。
もうダメだと力尽き、 木にもたれかかり、ずるずると体が落ちた。 草が伸びていて座っていたら少しは体が隠れている。 生物の気配がしないから、休憩できるくらいの時間がはあるだろうと、 気を緩めた。
「きみ、だぁれ?」
と初めて聞く間延びした声にビクっと体がはねた。 いつの間にか眠ってしまっていたらしい。 声の主に目を向ける。 オレからしたら小さな男の子が心配そうに、 こちらを眺めていた。 今までに出会ったことのない、 その優しい瞳に、 心が震えた。
オレは名をなのった。
彼を見ていたら、 彼になら殺されてもいいと何故か思った。 このオレが!…もう血が流れてすぎて脳みそまで干からびてしまったか?
でも目の前の存在にオレは依存した。
彼はオレを移動させようと、肩に手を回す。 体格さは歴然でデカいオレを、 運べないことを悩んでいるようすに心が痛んだ。
そんな顔させたくなくて、 オレに出会う前の日常に戻ってほしくて、 「オレを殺して」 なんてお願いしておきながら、 今度は彼を遠ざけることに必死になった。
けれど遠ざかっていったのはオレの意識の方だった。
ふわりと目がさめたのは、覚えの無いベッドの上だった。 上半身を起こし、辺りを見回す。 ベッドサイドで腕を枕にして眠っていたのは、 あの時出会った子だった。
隣にいてくれたことが少し嬉しくて、 その白い髪の毛に触ろうと手を伸ばして気が付いた。 オレの手が小さくなっていることに。
ばっと、伸ばした手を引っ込めて自分の体を確認する。 一瞬にして青ざめた。
体が小さくなっている。 正確に表現するなら子供の頃の姿に戻っていた。
動かした部分から鋭い痛みを感じ、 オレはまた背を倒しベッドに埋もれた。
寝たままの態勢で、 包帯がぐるぐるに巻かれた両手を天井にかざしてみた。
生きている…。
あの時、彼になら殺されてもいいと思った。 けれど横にいる彼を見たら、 生きていることがどんなに素晴らしいかを感じた。
とても不思議な子だと思う。 オレはこの子に、もしこの先降りかかる不幸せがあったら、 何があっても守ろうと、側にいようと自分の中、心に固く誓った。
そこで夢の終わりを告げる玄関を叩く音。 まだ寝起きで重たい体を引きずってドアを開けたら、 さっきまで夢の中に出てきていた彼がいた。
オレは手を引いて家の中へ連れ込む。
その内に眠かったのか彼は、 すやすや寝息をたてて動かなくなった、 オレは腕の中すっぽりと収まる温もりの形を、 抱き締め確認しながら、 オデコにキスを落として、 また夢の世界へ入っていった。
また見る夢もノバリがいたらいいなと思いながら。
ノバリはオレに愛をくれる希望の光。 この光を曇らすことのないように。
ぎゅっと腕に力をこめた。
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