「俺がIQを好きになった理由?」


ビスケットの庭の、いつものテーブル。
珍しくニッカと俺以外は誰もいない。

暖かく眩しく今日も晴天の庭。

人数が少ないせいか、その暖かさも心なしか温度が下がっている気がする。

俺は肺まで入れた煙を、ふーっと勢いよく空にまいた。
空まで届いて雲にならないかな?
とか思ったような思わなかった様な。


「ちょっと待ってろ」

俺は席を立ち、ビスケットの家の中へ向かった。
途中振り向いてニッカに


「お前飲み物、何がいい?」

と聞いてやると、ココアーと可愛い声が返って来る。
俺は何も言わずそのままキッチンへはいって行った。

数分後、飲み物を持ってテーブルに着いた。

そう、今日はなんだか話してもいいような気持ちだったのかもねぇ。


「最初に会った時は俺、IQのこと嫌いだったんだよ。
理由はきっとあるんだろーけど、言葉じゃ説明できない気持ち?
あんじゃんそーゆー時って。
強いて言うなら、あの子器用でなんでも作り出せるし、そんなところに嫉妬してたのかなー。
この俺様が。
そんなんだから、俺いつもIQに意地悪してたのよ。
メンチきったり、暴言はいたり。
でもいつも、スルーされててさー。
涼しい顔してるわけよ。
それも何だか気に食わなかったんだろかねぇ。
今思うと、なんであんなことしたのかなぁーって。
で、レイニーデイズからお互いイヌ科なのに仲が悪いですね…
ってよく言われてたっけ」

ニッカは俺のいれたココアをすすりながら、嬉しそうに話を聞いている。
それを確認し俺はまた話はじめた。


「そんで日はながれて、いつもの通り俺はフラーっと時々町に来たり来なかったり。
相変わらずIQとは仲が悪かったわけよ。
その日は珍しく雨が降ってて、
レイニーデイズが死んだんだってすぐに分かった。
ビスケットの庭には、誰もいなくて。
家に入ったらビスケットが一人。
あいつ雨の時は外に出れないから、一番行きたかったはずなのに、
埋葬に立ち会えなかったのよ。
……っと話がずれたな」


レイニーデイズが死んだくだりから、ニッカの眉毛が下がりはじめた。
この子、こんなに感情豊かだったけ?
なーんて考えてたらノバリの甘ったれた笑顔を思い出した。
あぁ、それでか。
納得した俺は話を続ける。


「あのレイニーデイズの墓のある場所に奴ら集まってて、
俺は影から覗いてたんだけどね。
IQだけが見当たらなくて、変だなーって思って探したわけよ。
仲が悪いのに何か気になってさー。
探してる俺は、頭で考えてることと、動いてる身体がほんとバラバラな感じで、
IQ見つけても、憎まれ口しか叩けないのに、
なんか必死になっちゃって。

…恥ずかしっ!!俺、何言ってんだ!」

ここ何十年、何百年、こんな恥ずかしい想いをしたことないのにー!!
なんでこんな話になったんだっけ??
もう帰ろうかな、、、
そしたらニッカが笑顔で言った。


「ねぇ、、続き聞かせて?」


ハッと目が覚めた気がした。
この人間の小娘に心を見透かされた気が…
いや、確実に見透かされてる。
ここまで来たら逃げないよ、だって俺、朗朗だもん。

コホンとわざとらしい咳払いをひとつ。


「えーっと探してるところからだったな、
IQが自分のアトリエにいるのを見つけて。
俺お得意の姿消す魔法で家に入って、
見ちゃったんだよ。
後ろ姿だったんだけど、でもそれだけで分かったんだ。

泣いてるのが。

泣き顔を見せないようにわざわざアトリエに帰ってきて、
それでも声を我慢して泣いてるんだよ。

誰にも見られないのに。
誰にも聞かれないのに。

せめて大声をだして泣けばいいのに。

そしたら俺、IQ思いっきり抱きしめちゃってて。
それかなぁー?好きになった理由。

まだ続きはあるけどIQと俺の想い出は、俺だけのものだがら、
後は内緒〜」

話終わって、ニッカは言った。


「最初のね、嫌いと思ってた時から本当は好きだったんじゃない?」

俺は本日2度目の、覚醒。

いや、起きてるんだけど起きてるんだけど。
この小娘の短い言葉に、
IQとの出会いの全てが繋がった気がして。


ボーっとしてたら、遠くからガヤガヤ騒がしい音が聞こえてきて、
ニッカが勢いよく椅子から立ち上がった。


「ノバリ〜!ドクロ〜!!」

こっちこっちと叫ぶ元気なニッカを見て、
そろそろ退散するとしようかな。
俺は軽いため息をひとつ。

後ろからニッカの小さい頭をなでて、


「今の話、誰にもするなよ」

そう言って立ち去ろうとした俺に、ニッカは振り向き、満面の笑みで、


「うん。朗朗の大切な想い出だもんね
誰にも言わないよ!」

笑ってたと思ったら、今度は真剣な顔になって言うニッカに忙しいヤツだな、と聞こえない様に呟いた。


心も身体も真っ黒なはずの、この俺の。

ニッカに触った右手が、一瞬白く浄化された気がして。

これ以上は何も言わない。


そして俺は、黒い煙に紛れて消えた。

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