降りしきる雨の日に…

博士が死んだ……


Jemmyはいつも晴天で、
心地よい風と透き通る青空。

そして緑が揺れるビスケットのきれいな庭。

なのに今日は雨が止まない。


博士は心臓に大きな大きな病を持っていた。

魔女は長生きするのが常だけど、
博士は先祖代々にわたって短命だったらしい。

でも…でも…博士はいつも博士のままで、
ぼくたちと一緒にいてくれると思ってた。

死が来るなんて…想像も出来なかった。

博士は言った。

「ノバリ、私は君と出会えて、とても幸せだよ」

ビスケットの明るい庭で、
ぼくと博士が二人きり。

目をとても細めて笑うから、
ぼくは嬉しくて博士に抱きついたんだよ。

ねぇ、それを博士は…おぼえてる?


そして夜、
ぼくはひとりベッドの中。
心臓がわけも分からずドクドク激しく動いて、
ぼくを置いて走り出してしまいそうな感覚が恐くなって、
博士に会いたくて…。

ぼくは真っ暗な夜道を月明かりたよりに走った。

……間に合わなかったねってビスケットが悲しそうに微笑んで…。

ぼくの頭はなにも…なにも考えられなくなった。

気づいたらぼくはポルカに手を引かれてて。

視線は自然と足元へむかった。
雨粒が止めどなく地面を激しく削っていた。

Jemmyに雨が降ったのを、
ぼくは初めて目にした。

気がついた?ってポルカの声が隣にいるはずなのに遠くぼんやり聞こえて、
はっとした。

ずっと…大事なことをなにもかも忘れていたような気がした。


「埋めるよ…博士…安らかにお眠りください」

雨音がうるさかったはずなのに、
その声は一言一句もれずに、
ぼくの耳へと届いた。


まって…まって…

いかないで!!!

ぼくをおいていかないで!!

そこからぼくの記憶はあやふやになってしまった。

博士の棺。
葬るのはショコラ、ポルカ、ぼく。

止まない雨に頬をつたう全部の涙が水となって消えいく。

びしょぬれのぼくは泣くことしか出来ずに、
その場所から離れられなくなった。

どのくらいここにいて…泣き続けているのか…
そんなこともどうでもよくて…

ぼくは、ただただ悲しくて。
雨は止んでいるはずなのに頭の中では、
あの日の雨音が消えない。

「ねぇ…博士、なんで土の中にいるの?
出てきて一緒に遊んでよ…
ノバリって呼んで笑ってよ…
そうか…一人では出て来れないんだね。
大丈夫、ぼくが出してあげるから…
ごめんね…気づかなくて」

土が邪魔で博士は出てこれないことに何でもっと早く気づかなかったんだろう。

ごめん、ごめんと言いながらぼくは土を掘り返した。
汚れていく両手なんか全然気にならない。
ひたすらに無我夢中でかき出した。

「なにやってんの!!ノバリ!!」

バッと両手を捕まえられて動かせなくなってしまい、
ぼくは力いっぱいに暴れた。

「なんで!!なんで邪魔するの?!博士がここから出してって言ってるのに!!」

バシリと音が弾けた後に、
ぼくのほっぺたにチリチリした痛みがやってきて唖然としながら前を見た。

始めはぼんやりしてたけど、
だんだん目の前にいるみんなの顔が怒ってるようだったり、
悲しそうだったりで、
久しぶりに頭の中の雨音が止んだ。

「ノバリ、博士は死んだんだ。
病気で死んだ博士は生き返らない」

そうぼくに語りかけながら、
IQが頬っぺた痛くなかったか?と優しくさすってくれる。

「悲しいのはみんな同じだ。
だからこそ、悲しみはみんなで分かち合おう。
前を…俺達を見るんだ…ノバリ」

IQがぼくの側にしゃがみこんだ。

「そだよ!ノバリ!博士だってノバリに元気になってほしいと思ってるよ!」

だからもう泣かないで…。
そんな言葉を泣きそうな顔で言うポルカに、
遠くで冷たくなっていた心がじわりとあたたかくなっていく。

「博士が土の中で泣いてるんじゃない?
ノバリがうるさくて眠れないって」

意地悪く笑ったショコラに、
ぼくも笑った。

みんなが驚いてぼくを見てる。

あ、ぼく…どのくらい笑ってなかったんだろう…。

「みんな、ありがとう…。
でも…でも…みんなもいつか博士みたいにいなくなっちゃうんでしょ?
ぼく…そんなの絶対に嫌だよ…
もういやだよ…」

また悲しくなってしまったぼくは涙が止まらなくなった。

ぼくはいつまでも死なない。
いつかひとりになってしまう。

「オレ、提案があるんだけど。
みんな聞いてくれる?」

ショコラがニヤリと笑ってぼくを見た。

「ノバリの腹の綿毛をオレたちにわけて、
みんな寿命を延ばすってのはどう?」

「ナイスアイデア!さすがショコラ!
そしたらみんな一緒にいられるね!」

ポルカがショコラをキラキラした眼差しで神様を拝むかのように見つめる。

「確かにいい考えだな。
核からの生き返り組の俺らも元は所詮小動物、
いつ死ぬかは分からないし、
それならノバリも安心だろ?」

「IQ…。本当にいいの…?後悔しない…」

ぼくは不安になる。
永遠に生きるってどんなものなのか、
ぼくにも分からないのに…。

「するわけないよー!だっていつまでもみんなといられるんだもん!
絶対楽しいって!」

ポルカが興奮してノバリに詰め寄る。

「決まりだな」

そしてぼくたちは博士のお墓を囲むように座り、
みんなで手を握った。

「ともだちとは寿命も分かち合う」

とても晴れた空の下、
ぼくたちは永遠に最期を迎えることのない仲間になった。

あの蒼い蒼い空をぼくは忘れない。



※ドクロがJEMMYに来る前の話。

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