三年前、このロケット団はボスを失った。正しく言えば失踪した、である。
 統率者を無くした多くの部下達は途方に暮れ、不安の波にさらされていた。そんな中で、ナマエは死に物狂いでアポロと共に現在に至るまで組織の指揮を取っていた。
 そして今日、ロケット団はボスであるサカキに向けてメッセージを発信するための作戦がジョウト地方のとある街にあるラジオ塔にて決行されることとなっていた
 −筈なのだが、
 
「こっ…これはどういうことだ!」
 一人の少女により作戦が現在進行形で阻まれているのだ。既に仲間であるアテナの手持ちは全て倒されてしまい、増援としてやってきたナマエであったが、彼女の手持ちも残り一体となっていた。
「どうみても私より未熟な子供がこんなに強いんだ!」
 ナマエは目の前の少女にそう叫んだ。その頬は声の高ぶりに比例して赤みが増し、冷静さの欠片も見えなかった。
 自分たちの時間を、苦労を、たった今、この一人の子供により全て水の泡になりかけている。
 認めてたまるものか、とナマエは唇を噛む。
 ポケモンと触れてきた期間も、知識も、ロケット団完全復活に向けての執念も、そんじょそこらのトレーナーやましてや子供にすら劣らないものだと彼女は自負していた。
 それなのに、それなのに、

「−負けるわけにはいかないんです」
 問うたわけでもないのに少女は淀みなく答えた。その傍らからのっそりと四つ足で藍色の巨躯を持ったポケモンが身を乗り出す。トレーナーを守るかのごとくその眼の前で威嚇するように立ち上がったかと思えば、首回りから激しく炎を吹き出した。
 同時に咆哮が部屋中に轟く。びりびりとした衝撃がナマエの皮膚を走る。
「バクフーンか…!」
 ナマエは狼狽えながら、どうにか心を落ち着かせようとした。
 諦めるわけにはいけない、私だって、負けるわけにはいかない−それに自分には、
 視線を下に移し、手元のモンスターボールを見る。中に居るのは地面タイプの彼だ。相手のタイプと比べればこちらが有利。まだ、まだ、勝算はあるのだと希望を見出していた。
「お姉さん」
 呼びかけに反応するように顔を上げると、少女は桃色の唇を動かした。

「早くポケモンを出してください」

 揺らめく炎の向こう、ナマエは少女の白い帽子の下から覗く眼差しに、一瞬だけ呼吸を忘れ、その一瞬の中で悟った。


 自分は負ける、と。 


『ナマエは目の前が真っ暗になった!』


  

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