第二王都を奪還し、聖女ユリサは街を歩き回り修復に勤しんでいた。

「ユリサ。少し休みましょう。何か飲み物を持ってきます。あなた達も休憩を」

 テヴィーは周囲の護衛にそれを命じれば、ユリサを中心として彼らは周辺に散っていく。ユリサは右腕を閉じたり開いたりしていた。少し火花が散っている。
 魔王現象アバドンを撃破後、ユリサは随分といろんな人間に囲まれていたものだが、テヴィーの見事な手腕により最低限の人員を残して、復興へと割り振られて行った。

 ユリサは周囲を見ていた。眺めているに近いかもしれない。修復するのに夢中だったが、第二王都はユリサが見たこともないような外装をしている。
 路地裏で、小さな影が見えた。子供だろうか。まだ戦いが終わってないと思い、逃げ惑っているかもしれない。影がもっと遠ざかりそうになったので、ユリサは走り出した。

「も、もう大丈夫!です!こっちにきてください!」
「…ゆ、ユリサさん?」

 名前で呼ばれて、ユリサは目を凝らした。白い軍服の少女。驚いたように口を開いたまま、ユリサの前に立っていた。

「ナマエ」

 ナマエはユリサに呼ばれると、体を反転し、駆け出しそうな体勢になる。ユリサは咄嗟に右腕を掲げた。
 周囲が白く発光する。

「ひゃあっ、あっ」

 ナマエの進路を阻害するように、壁を召喚されていた。ナマエが去ってしまうと思い、無意識的に力を使っていた。
 ナマエの前には見事な煉瓦の壁がそびえたっている。ナマエは突然現れた壁を立ち止まって見上げている。ユリサはようやくナマエにおいついた。

「ナマエ!」
「ユ、ユリサさん」

 ユリサはナマエの手を取った。

「どうして、どうして私を避けるの。私のこと、嫌いになってしまった?」
「セネルヴァの体だから、怖かったんです」

 ナマエはユリサの顔を見つめた。瞳が揺れている。こんなに弱々しいナマエは、初めて見た。

「セネルヴァの、何かを感じるのが、怖かった。もう彼女が死んでしまったと感じてしまうのが、怖かったんです」ナマエは額を抑えた。息をするのも苦しそうだ。「私が何度だって立ち上がれるのはセネルヴァの、おかげだから……でも、今はーー」

 ナマエは、これからもそうなのだろうか。
 私はセネルヴァを越えられないまま、彼女の記憶に残ることができないのか。私は、セネルヴァの体だから、ナマエに避けられてしまうのだろうか。
 自分は、セネルヴァよりも強い存在にならなくてはいけない。できるのだろうか。サベッテからの言葉を思い出し、また立ち止まりそうになる。
 ユリサはこうした大事な局面で、自分の世界が崩れるのを恐れて、現実からいつも逃げていた。ただ、逃げた先にはいつも絶望しかなかった。またそうなるのは避けたい。
 今こそ、向き合わなければならない。大丈夫。自分には、力がある。覚悟もある。

「あのね、ナマエ」

 《女神》セネルヴァはもう機能停止してしまった。それなら、自分にできることはもっとあるじゃないか。世界を平和になった光景を一緒にみることはしなくてもいい。
 ユリサは笑った。

「私が、世界を救ってあげるからね」

 これからもっと頑張ればいい。聖女として、世界を救う。そうすれば、彼女の心の支えとなり、忘れられることはないかもしれない。ーーいいや、今度こそ忘れさせてあげない。

  

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