シレンから逃げるように帰ってから、ユリサは寝台から動けずにいた。
すでに紫の月が冴え渡っていた。
深く考えてしまうと、気が狂ってしまいそうだった。ユリサは傍の本を引っ掴み、適当にめくっていく。
「ああ、あぁ……」
それは、言い回しが難しく、内容だって怖かったから、と言い訳しながらあまり読み進められなかった本。
今では驚くほど内容が頭にはいる。
気づけば登場人物に対して、深く共感していた。怪物を造った男にではない。怪物自身にだ。
ただ生を受けただけなのに、出生だけで人から恐れられ、嫌悪される彼。それでも人と迎合するために、たくさんの知識をたった一人で身につけて、ーー結局その出生ゆえに人と関わるのに失敗した彼。
私みたい。
幼い感想が出てきた。失敗するところまで一緒だ。
ただ、彼は賢い。確かに、同じ存在を造って貰えば、対等に付き合うことができて、寂しさを埋めることができるだろう。
もはやシレンとまた関わる気はなかった。何回か遊んだ彼でさえ、ユリサのことを避けた。それに、血の繋がった父の態度を見ればわかる。
いかに努力したといえども、根本的に人と関わることがもはや許されない存在なのだ。
「大丈夫。大丈夫…」
ユリサは自らに言い聞かせた。嗚咽混じりで、ろくに発声すらできていなかったが。
そう、戻るだけだ。
いつか聖女のように活躍するという夢物語を支えにして、孤独な生活を送るだけ。
今まで大丈夫だったではないか。これからも、きっと大丈夫だ。