悪魔学校に新任の教師がやってきた。
若葉色の若い悪魔は色々な意味で甘ちゃんで教師としてはまだまだ未熟だった。
だが、教育係がカルエゴになったためナマエはそれほど心配はしていなかった。
粛に、厳粛に、見込みがないならとっとと切り捨て、見込みがあるならきっちり育てるのがカルエゴのやり方だ。
それでここまで辞めずにやっていることこそがロビンの見込みが十分にある事の証明に他ならない。

「ロビン先生、学校には慣れましたか?」

「ええ、先生方も生徒のみんなも良い子で助かってます。だから、僕も精一杯頑張ろうって思えますね」

元々明るい性格なのもあるだろうが、ロビンの表情に陰りはない。
仕事を苦にしていないようで何よりだ。バルバトスの系譜は一点集中型だ。興味さえ持たせられればとことん突き詰めてくれる。
そして、初々しいのが良い。とても、非常に良い。変に捻くれることのない真っ直ぐな若者である。
夢いっぱいやる気いっぱいなロビンの返事にナマエは満足げに頷いた。

「慣れないこともあると思います。お手伝い出来ることがあったら遠慮なく声をかけてくださいね」

経験のないことを卒なくこなせる悪魔は稀有だ。ナマエだって苦労して古参のダリなどに助けられることも多かった。
教師としてそれなりに勤め上げた今ですら、何でもこなせると自惚れはしていないがロビンの助けになるくらいは出来るだろう。
既に教育係がついているとしてもその他のありがたい助けがなければやっていけなかったから、ナマエは親切心として申し出た。

「ありがとうございます、ナマエ先生」

満面の笑みで礼を言うロビンの顔がキラキラと輝いてみえた。ロビンは、明るくて、懐っこくて、裏がなく、親しげで、真っ直ぐな悪魔である。
だから、可愛くて、撫でたいなぁと思った。後輩とはいえ、いきなりそれほど親しくもない成人男性の頭を撫でるなんて失礼なことだ。セクハラだ。
理性はそう囁くがナマエはムクムクと湧き上がる衝動を抑えるのに苦心した。それを掌に爪を軽く立てて耐える。流石に流血するほど力は入れられない。大騒ぎになってしまう。
そこの加減は出来るのにどうしても撫でたい気持ちが抑えきれない。
悪周期にはまだまだ期間が空いていた筈でストレスもそれ程溜まっていない。むしろ癒されている最中である。
はて、どうしたものか。
それなのに自分の舌は滑らかに動き、テンポよく話を進めるのだから恐れ入る。

「私はカルエゴ先生がロビン先生の教育係で良かったと思ってますよ」

「僕もそう思います。仕事が出来るところも教師としての心得も!とてもとても尊敬してます」

キラキラと目を煌めかせて語るロビンにナマエも微笑み返した。微笑んでいたと思う。
酷く渇いた気がして、喉を抑えて咳をする。舌がまめらなくなって会話が終わってしまったら突然の暴挙を止められそうにない。
咳を案じたロビンが近づいて、ナマエは我慢しなくてもいいかと思った。
同僚の頭を撫でた程度が何だと言うのだ。そうだ自分は気にしすぎだ。
そして、手を伸ばしてロビンの頭に触れようとした。

「ナマエ先生、僕のど飴持ってますよ〜。それとロビン先生、そろそろ次の授業の準備した方が良いと思いますが?」

「あ、そうですね!行ってきますね。ナマエ先生、お大事に〜」

大袈裟なくらいのリアクション(通常運行)で強引に割り込んで来たのはダリだった。
中途半端に止まったナマエの手にのど飴を握らせ、ロビンに次の予定を伝える。
ダリは慌ただしく荷物をまとめて職員室を出たロビンを見送ってナマエへと向き直った。

「ナマエ先生〜、拙い顔してますよぉ」

いつもニコニコしているダリには珍しいことにちょっぴり疲れた顔をしていた。

「あらやだ。ダリ先生、ロビン先生は変に思ってしまいましたかね」

「そこはちゃんと繕えてましたよ」

「やっぱり頭を撫でるのはダメですかね」

「プライベートでは止めませんけど職場で過度なイチャイチャはご遠慮願います」

「可愛かったのでつい」

可愛いものを愛でたくなる全悪魔共通の本能だと思うのだがままならないものである。
すっかり頭の湯だったナマエは撫でるくらいいいと思うのだが尊敬するダリがいうのなら仕方ない…我慢してみようと思った。

「そういえばナマエ先生は、自分がロビン先生の教育係になりたかったと言うと思ったので意外でしたね」

「だって、カルエゴ先生は猛犬みたいでしょう?ロビン先生は仔犬みたいで…並ぶと可愛さが引き立っていいんですよ」

ふふふと妖艶に微笑むナマエにダリは藪蛇かなぁっと頬を掻いた。
やはり悪魔は悪魔だった。一筋縄ではいかない上に曲者揃いだ。

「あ、もちろん相性も良いと思いますよ」

取ってつけたような感想にダリは大きくため息を吐いた。
教育係は悪魔学校一の厳しい教師で、その上可愛いものを愛でたがる教師に目をつけられ、今回の新任教師は前途多難のようである。




妄想置き場の黄泉様から誕生日に頂きました。

  

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