小ネタ | ナノ

(kmt)鬼舞辻と娘


「今は朝でしょうか?よい朝でしたか?運勢ですよ。亀鏡なんて、ここにはありませんから。
 夢なんて見れておりません。ここに連れてこられてから眠れていませんから。疲れておりません。すこし、お腹が空いただけです。
 それは嫌です……。それは食べ物では、ないでしょう。
 ああ、でもそれを見ていると喉が渇いてしまう……。いえ、いりません。遠くへやって頂きませんか。
 ありがとうございます。

 思い出したことがあるんです。ここに連れてこられる前の話です。
 その時の私は今と違って眠れてはいました。だけどよく悪夢を見ておりました。
 川底の瀬音に安らいだり、暗いお堂の中で落雷に怯えたり、桜の木の下で掘り起こされるのを待っていたり。
 私はいつも最後には泣いていました。
 だって私はその間ずっと一人でしたから。捨てられてしまったのだと、子供みたいに泣いていました。

 私は思ったんです。今がその悪夢なのではないかと。
 だってそうでしょう。私はいま、眠れないんですよ。
 私は悪夢の中ではじける瀬音やほとばしる雷、鳥の声を眠らずにずっとずっときいていたのです。
 だから今もそう、悪夢なんです。貴方の、――恐ろしい化け物の声をずっと聞かなくてはいけないのだから。

 貴方が私の父?
 そうですね。貴方の肌は白いし、髪だって黒い。吸い込まれそうなほど鮮やかな紅梅の瞳だって父のものです。私も父と似て……いいえ、関係無い話はやめましょう。
 でも、どれだけ貴方が私の父に似ていても、貴方は私の父ではありません。それだけはハッキリといえます。きっと、貴方は私の悪い夢を集めた化け物です。
 だって、そんな恐ろしいものを食わせる親なんていませんもの。
 ねえ、それを喰べれば私はこの悪夢に閉じ込められたままなのでしょう?きっとそうね。
 死んでしまう?いいえ、悪夢から覚めるだけでしょう。

 ああ、良かった。喉は渇いたままだけど、まぶたが重くなってきました。

 ……貴方はひどい化け物ね。
 父の顔でそんな表情をしないでください。悲しくなってしまう。人の腕を口にしてもいいかもしれないと、ほんの少しだけ思ってしまいました。
 でもダメよ。私は父と母の元へ行きますから、貴方は一人でここに居てください。

 おやすみなさい。おやすみなさい。父に似た何かさん。貴方が私のように、悪夢を見ないよう、祈ってます」




鬼って餓死するんですか?(外伝より)








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