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(忠誠主と無惨)細波に洗われる


「旦那は音楽は好きですかい」

 箏の前に端座する男ーーナマエが背を向けたままそうたずねた。

「嫌いではない」

 無惨の答えは本心からだった。無惨は、音楽とは紡ぐものによって多少個性は出るが、根本的なところは変わらないものだと解釈している。
 ナマエが弾く曲だって過去に聞いたことがあるものがあった。それに仮初めの妻が子供に聞かせてやる子守唄だって時代は違えど節が同じものに出会うときがあるのだ。
 郷愁に浸るわけではないが、ああ、この曲を聞いたあの時はああしたな、と思い出すときはある。
 そうしてそれらは精神を宥めるほどのものではないが、逆立てるほどのものでもなかった。

「好きな曲はありますか」
「無い」
「そうですか」

 無惨の答えにナマエは特に不満は持たなかった。適当に譜面を頭の中に散らかしてから、一曲選んで弦を弾き出す。
 普段は舌に油をさしたかのように饒舌な男だったが、この時ばかりは口を閉ざす。家具のように、ただ音楽を奏でる装置としてこの部屋に在る。
 部屋に流れるのは、無惨が聞いたことのある曲だ。ナマエの隣で、何度も。この男の数十年を閉じ込めた音も、やはり好きにも嫌いにもならなかった。
 一曲弾き終わり、ナマエはすぐに次の曲へと移行した。鬼となってからも何度も反芻しているらしく、迷いは無かった。

「……変わらないな」

 ぴんと背筋を伸ばして弦を遊ばせる姿は、低い視界の中で見続けたものと相違無い。若旦那様、と無惨を己の主として頂いて、ひたすら期待に応えようとするあの横顔もあの時から変わっていない。思い出すと、妙な心地になる。悪い気分ではなかった。
 不思議そうに視線を向けてくるナマエに、続けるように促してから無惨は瞼を下ろした。




音楽を嫌いではないと答えたものの病床に臥せっているときに散々聞いていたから音楽嫌いな無惨様もありですよね。
今回は本誌のああいった態度とっていたことを踏まえて、嫌いではないという答えにしました。

(以下、早口で言ってそうな独り言)
 自分が生きるためならばと多くの人の犠牲を良しと、「正しい」こととして、千年も続けるという人から外れた倫理観と傲慢さと執着心を持っている。その一方で神や仏に許「されて」いると言ったり、産屋敷邸の雰囲気に郷愁感じたり、人間の一言一言を気にしたり、完全に上位種となれてないところ好きです。

 どうしてこんな言動とっているのかっていうのを順を追って考えてみれば結構単純なことなんじゃないのかと思います。
  鬼舞辻無惨はもともと自尊心が高いのに加えて、病床において散々劣化(変化)を味わった人間でした。
  その経験から生まれたのは不変(鬼)こそ完璧であり、変化・劣化(人間の部分)は完璧でないという価値観。
  だから無惨自身、自分の人間の部分は全否定してる/したいっぽいんですよね。(上弦集会回も人間の部分が残っているからダメなんだというようなことを言っていたし。)
  なのにたまにボロが出ている。自分の中の御しきれない人間性と払拭できていない、この価値観を形成する要因ともなった、むき出しの劣等感のせいで。

 多分病気で苦しむ自分に寄り添おうとする人がいたって、その人は不変こそ完璧であるという自分の価値観を否定してきたとして鉈で頭かち割ってきそうじゃないですか。そこまで自分を信じて疑わなさそう。(個人的には絆されたパターンも見たい気持ちもある)

 この人並み外れた自尊心と人並みの劣等感が共存しているっていう気が狂いそうな属性を持っている鬼舞辻無惨というラスボス。(推せる)(ここまで捏造妄想8.5割)(夢いっぱいほしい)

 小者っぽいと称されているのも気持ちの余裕のなさが全面的に出ているシーンが多いからなんだろうなあ、と思います。必要であれば堕姫の時のように下の者を扇動したり、一般人を演じられるのに、地雷踏まれたシーンの印象があまりにも強すぎるんですよね。わかる。

正味なところ、呪って呪われ続けた鬼舞辻無惨はどんな最期を迎えるのか楽しみです。
自分が正しいのになんで!と思ったまま死ぬのか、どこで間違えた?と疑問を抱いて死ぬのかどっちなんですかね。どちらでもないかもしれないけど。
プライドだけで千年変わらず生きられていたので、前者の姿勢を貫く可能性は高そう。でも最期の最期に自分の行動に疑問を抱いてしまうっていうのも好きです。追い詰められてようやく無惨様自身が嫌う人間らしさ(不安、焦燥といった感情の変化)が出てきた、という感じがして。

本文より長くなった気がするのでそろそろおしまいにします。閲覧ありがとうございます。落ち着いたらこの独り言は燃やしておきます。こんな解釈もある!!!!!!!!という方がいらっしゃいましたらメールまでお願いします。








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