カリムは遠いひと





富と幸福は切り離せない。
けれど不幸はそのどちらもの傍らに息をしている。
だからこそ彼はその翳りを焼き尽くさんと、照らし尽くさんと笑っているように見える。
カラカラと陽気に鳴らされる喉は、いくつの毒を飲みこんできたのだろう、と、彼の生い立ちの一片を聞いただけですら想像に身を震わせてしまうというのに。それでも楽しげに笑うのだから、彼のことはもっときっと、知り得ないだろうと思っている。
「……楽しくないか?」
気遣う声に、いいえ、と首を横に振って、あなたが楽しそうにしているのを見ていたいのだと告げる。すると彼は目を瞬かせて、理解できないという顔を素直に見せるから、つい声をこぼして笑ってしまった。
「なにが面白かったんだ?」
「だってあなた、わかりやすいんだもの」
こんな時ばかりは、とは言えないで、隣に座る彼を見る。不思議そうに首を傾げて輝く赤に、とある星を想う。炎を閉じ込めたような揺らめきはまるで、夏の夜空の蠍に似ていた。
身を潜め、毒を潜め、何かを追い掛ける彼(か)の先にあるのは、いったい何であろうか。
背中を預かる毒蛇であれば知っているのだろうか、と、私はいつだって妬いている。その毒蛇には不本意だ、と顔を歪められたけれど。
「よくわかんねーけど、お前が笑ってるならいいや!」
胡坐をかいて、彼は私を覗き込む。その近さに勘違いしてしまいそうになるから、我ながら愚かな女だと呆れた。
自惚れるな。呑まれるな。その光は私だけのものではないのだから。
あなたの隣に立つものはいない。そして私は背にもなれない。分かっていても焦がれる私は、地から星を掴もうとする、愚かな観測者であった。



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