無自覚セベク


「に、」
人間!そう呼びかけるよりも早く、振り向いた目の鋭さにセベクは口を噤む。じとりと物言いたげな視線に、誤魔化すように咳払いをひとつして、改めて彼女の名前で呼びかけた。
先程の剣幕が嘘であったかのように彼女の顔が綻んで、その、花咲いたような表情に鼓動が乱れてセベクは動きを止める。不意のそれに理由がわからず、眉を顰めて胸を押さえた。
彼女といるときにだけ起こる不調に、人間……ましてや魔力すら持たない彼女が何かしているのかと気になり始めたのは最近のこと。
けれど不思議と悪くはない、などと思って、それすら何故だと頭を捻り悩めども、答えは見つかっていない。
「どうしたの?」
ハッとすれば、心配を浮かべた顔が自分を見上げているのに気付いて、セベクはまたそれにドキリとする。より強い鼓動に小さく呻けば、彼女は目を見開き慌てた様子で駆け寄ってきた。
手のぬくもりが、労わるようにそっと触れる。その手の小ささにセベクはどうしようもなく驚いて、無意識に身体を跳ねさせた。己の反応にさえも驚きが増して、目を白黒とさせながら彼女を見た。
同様に驚いて、見開かれた瞳がいつもより光を受けて輝いている。それにただ「美しい」と目を奪われていれば彼女の顔が赤く染まって、つい言葉をこぼしていたことに気付きながらもセベクは衝動のまま彼女の両肩を手で掴んだ。
「教えてくれ」
この気持ちの正体を。高鳴る鼓動の理由を。
彼女の言葉で知りたい、と、急かされるように告げるセベクは、その瞳に映る自身の顔の赤さには、気付けるはずもなかったのだった。



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