星がきれいだから水葬にしてあげる

わかりきっていたことなのに、私ときたら、どうしてこんなに悲しんでいるのだろうか。
涙なんか出てこない。
ただ、ぼうっと円形の窓を見つめていた。



「上手く言えないけど、たぶん好きなんだ、君のこと」



夢のような言葉だった。
それだけでこの世界には哀しみなんて微塵もないのではないかと思えてしまった。
日常に幸せのメロディが絶えなくなった。
彼の笑顔を見ると私も笑顔になって、その笑顔のためなら何でもできるって、本気でそう思った。



「最近ハーマイオニーは憎まれ口をきかなくなったよ」



そう言って笑う君を私も微笑んで見ていた。
あなたが全てだった、あなたが悲しければ私も悲しかった、あなたが眠ければ私も眠って、あなたが死ぬと言えばきっと、私も死んだ。



「ハーマイオニー、今日は私とロンとお茶しましょ」

「いいの?私がお邪魔しちゃって」

「もちろん」



彼の笑顔が全てだった。
本当に、それが全部だった。
ハーマイオニーに笑む君を見て、私も笑んだ。
嬉しかった、ただ、少し胸がずきずきしてただけだ。
入学当初から仲のいい二人の関係はただの友達ではもはやないと誰もが囁いていたし、私もそれに気づかないほど鈍感ではなかった。



「君には、何と言ったらいいか…」



彼の困ったような顔を思い返す。
今までに見たどんな表情よりも、私の胸をざわつかせた。
気まずい沈黙に私も彼も視線を地面に落とした。
そっと、彼の手が控えめに私の頬を撫でた。



「ごめん、僕は最低だ…」



彼の目には涙が滲んでいた。
私には彼の笑顔が全てだった。
彼が泣けば私も泣いた、彼が悲しければ私も悲しかった。
からっと笑いながら、僕は君よりハーマイオニーが好きだ、もうお別れさ、と笑ってくれればよかった。
そうしたら、私も笑って、さようなら、と言えたはず、なのに。



ぽちゃん、とお風呂の水が音をたてた。
もう頬についた水滴が涙なのか水なのかはもはやどうでもいい。
ゆっくりとゆっくりと、水の中に沈んだ。
このまま浮かなければ死ぬだろうか。
もう彼の意思など関係ないのだし、私は私の意思で、全て手を下すのだ。



「ロン…」



水の中でそう呟けば、息が吸えず口内に大量の水が流れ込んだ。
苦しい、と思ったが、彼の泣きそうな顔を思い出した方が苦しかった。
走馬灯のように彼の笑顔が頭を支配して、今までそれが私を笑顔にしていたのに、今ではもう、何にもならなかった。
意識が遠くなりはじめて、もう、苦しみから解放されると思った。
水面越しにきらきら見えたのは窓から見える星ぼしだろうか。

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