「ジョージ」



隣にいる相棒に声をかけても返事がない。彼のボウルにどんどん牛乳が注がれていく。どこを見ているのかわからない目をした彼に僕はもう一度呼びかけた。



「ジョージ!」

「え?うわっ!」



反応したと同時にボウルから牛乳が溢れた。それと一緒にボウルの中にあったシリアルも流れ出す。それを慌ててナプキンで拭いた。ジョージも動揺して立ち上がる。



「何ぼーっとしてるんだよ」

「ごめん、何でもないさ」



相棒は一緒に牛乳とシリアルを拭いながらそう言った。ロンが間抜けな声でもったいない、と言った。このナプキンごと口に突っ込んでやろうかな。そう思って彼を見たら何かを察したらしく、俯いて自分の食事を食べ始めた。



「僕の目を誤魔化せると思うのかい、相棒。言ってごらんよ」

「何をさ」

「とぼけるのもよした方がいいと思うよ」

「さあ、さっさと食べてイタズラしに行こうぜ!」



ジョージはそう言って牛乳たっぷりのシリアルを食べ始めた。何か隠しているな。ただそれが何なのかわからないのが情けない。僕はもっと観察しようと思うのだった。



「そう言えばハッフルパフの子が髪が短い方がハンサムだって言ってたわ」

「僕らのことかい」

「さすが僕ら、どこの寮の子にもモテて参っちゃうね」

「スリザリン以外でしょう」

「いや、フレッドはスリザリンの子に告白されたことがあったな」

「ジョージくんがずっと好きでした付き合ってください、ってな!」



僕の言葉に周りのみんながどっと笑って、僕も得意気になりながら相方の方を見たが、彼は曖昧にしか笑っていなかった。僕が顔をしかめたのに気づいたのだろう。彼はすぐに笑顔を作って、どうしたんだい相棒、とおどけて言った。まったく、それはこっちのセリフだぜ。



ふと、その相棒の顔からまったく笑顔が消えた。その目が僕の肩越しに何かを見ていることに気づく。不審に思って、彼に視線を残しつつ後ろを振り返ると、そこには三人の男女がいた。



「やあ、ナマエ。昨夜はいい夢が見れたかい?」

「ええ、まあ」

「そうか、よかった。それで今夜なんだけど、僕と」

「ナマエが嫌がってるわ」

「なんで君にわかるんだい」

「コーマック、私たち朝食が取りたいから、またね」



妙に格好つけた立ち方をしているのがコーマック・マクラーゲン、苦笑しつつも口調に棘がないのがナマエ・ミョウジ、そしてその二人の間に割って入っているのがケイティ・ベルだ。彼ら三人はみんな僕たちより一学年下で、ケイティとはクィディッチのチームで一緒だ。やんわり断られたマクラーゲンが少し不服そうにしながらその場を離れた。二人は僕らの斜め前あたりに座る。ミョウジの顔に疲れが見て取れた。



「ケイティ、ありがとう」

「そんなこといいのよ、それより、いいの?」

「なにが?」

「コーマックよ。いくらなんでもしつこいわ」

「まあ…我慢できないほどじゃないよ。それに、うまく受け流せばいいもの」



その会話を聞いて僕は急にこの目の前にいる話したこともない女の子に同情の気持ちが湧いてきた。あれが、日常茶飯事なのか。そりゃあ可哀想だ。彼女らと反対側に座っている相棒は真顔のままシリアルのボウルを見ている。首をひねりながら彼女たちに向いた。



「おはようケイティ」

「あ、フレッド!ジョージも、おはよう」

「君にもおはよう、可愛いお嬢さん」

「え?あ、おはようございます」



ミョウジは少し笑った。少しぎこちないが、人見知りだろうか。いつまでも黙っているジョージの脇腹を小突いて挨拶をするように促したら、彼の口からぼそっと小さく「おはよう」と出てきた。思わず僕は目を丸くした。なんだ、こいつ。



「ジョージどうしたの?元気がないじゃない」

「悪いね、こいつ今日ちょっと胃腸の調子が悪いんだ。おっと、自己紹介が必要かな。僕はフレッド・ウィーズリーだ」

「知ってます、有名だから…私は」

「ナマエ・ミョウジ」

「どうして知って…」

「だって一回聞いたことがあったから。なあジョージ?」



すると急にジョージが立ちあがった。今度目を見開いたのは僕だけじゃなく、もう二人もだった。どうした?言っても返事がない。行き場をなくしたのか、両手をポケットに突っ込んで彼は苦笑した。



「言ったろう?今日は胃腸の調子が悪いんだ」



そのまま大広間を後にする相棒の背中を見つめていた。どうしたんだ?僕の発言のせいか?考えていると、ミョウジの申し訳なさそうな声が僕の耳に届いた。



「ごめんなさい」

「なんで君が謝るんだ?」

「きっとジョージさん、私のこと嫌いだから…たぶん気分悪くしたんじゃないかって」

「君を嫌う?」

「ええ、たった一度話したことがあるんですけど、それから私を見ると視線を逸らすか逃げるようにいなくなるんで」



いつだか悪戯の下見のために行った温室から帰ってきたジョージが花に水をやるナマエ・ミョウジという一つ年下のグリフィンドール生がいたと話してくれた。そして次の日だかに大広間でどれが彼女だか聞いてもいないのに教えてくれた。それからグレンジャーに花について聞いたりしていて、こいつは妙だなあと思っていたのだ。(まあグレンジャーは花なんかには特別興味がないらしく、何も収穫はなかったようだが。)



ようやく状況が読めて僕は勝手に口角があがるのを感じた。それを怪訝そうに見るケイティとミョウジの視線には気づかなかった。

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