視界を覆う濃紺




「ほら、この紙、君のだろう?」



肩を叩かれて振りかえるとそこには同じハッフルパフの男の子がいた。
一枚の紙を突き出されて渋々だけど受け取る。
徐々に友達が出来始めていた私であったが、まだ男の子の友達はいなかった。
紙を見ると名前は書いていないものの、字は私のもので、この紙の持ち主が私であるのは間違いなかったのでお礼を言った。
彼は黙ったままだ。



「ナマエ、彼はアーニー・マクミラン。アーニー、彼女はナマエ・ミョウジよ」

「は、はじめまして」

「…はじめまして」



グレイスの紹介で私は彼の名前を知った。
彼の挨拶は素っ気なかったけど、言葉とは裏腹に右手が差し出されたので、私はその手を握って上下に振った。
握手していた手が離れると、彼はグレイスにありがとう、と言った。
グレイスは顔が広い。
ハッフルパフの中でなら同級生だけでなく上級生にもたくさん友達や知り合いがいるようだ。
社交的な性格がいいのだろうな、と私は羨ましくなった。



「あら、アーニー、ここにいたのね」

「グレイスもナマエもこんにちは」



そこにやってきたのはハンナとスーザン。
彼女たちもグレイスの紹介で私と友達になったのだ。
はじめ私はいろんな噂があって、特にハッフルパフの生徒から敬遠されていたが、今ではこんなにたくさん(片手に収まらなくなったら十分『たくさん』だ)友達ができたのだ。
グレイスには感謝しても感謝しきれない。
それにやはりハッフルパフに所属する生徒の人柄もあるだろう。
そこまで寮によって生徒の性格が違うようにも思えないが、それでもハッフルパフには人がいい生徒が多い、と思う。



「一緒に食事をとらない?」

「ジャスティンはもう先に行ってると思うけど」

「ジャスティン?」

「僕らの友達だよ。君にも紹介する」



それはいい、とはしゃぐグレイスと一緒に私も行かせてもらうことにした。
スーザンは私の横に並んで、今日の授業の話をしはじめた。
スネイプ先生が怖い、という話は何度も彼女から聞いた。
彼女はそのことを忘れているのか、それでも言いたいのか、スネイプ先生が怖いと何回も何回も話してくる。
でも私もその意見には両手をあげて賛成なので、何回も何回も頷きながら賛同するのだ。
あの冷やかな目が鳥肌が立つほど怖いの!とスーザンが言ったのと同時に大広間に入った。
アーニーとハンナが手を振っている先を見ると、一人の男の子が席から立ち上がりながら笑っていた。



「悪いね、待った?」

「いいや、それほどでもないよ」

「君も知っているだろう、ナマエだ」

「ああ、僕はジャスティン・フィンチ‐フレッチリー」

「ナマエ・ミョウジだよ、よろしく」



ファミリーネームが長すぎて覚えられそうもないな、と思いながら彼と握手を交わした。
6人で囲む食卓はグレイスと二人の時よりもずっと賑やかだった。
はじめてできた男の子の友人二人とも上手くやっていけそうだ。
そろそろ食事が終わりそうかという時、目の前にメモのようなものが滑り込んできた。
驚いたが、すぐに手に取って開けてみる。
急に席を立った私をみんな不思議に思って見上げた。



「どうした、もう部屋に戻るのかい?」

「ううん、ちょっとね。すぐに戻るから」



大広間の外に来て。少し話があるの。
そう書かれたメモを握り締めて大広間の扉を目指した。
背後でグレイスが私を呼んでいた気もするが、振り返らなかった。
大広間を出て左右を見渡す。
すると右の方から私の名前を呼ぶ声があって、恐る恐る近づいた。
柱の陰に黒い髪の女の子がいた。



「ナマエ・ミョウジね?」

「そうだけど…あなたは?」

「私はスリザリンのパンジー・パーキンソン。ドラコにはよくしてもらっているわ」



彼女の口からドラコの名前が出てきてギクリとした。
しかも彼女は彼に『よくしてもらって』いるらしい。
仲がいいと言いたいのだろうか。
私が何も言わずに押し黙っていると、彼女はまるで私を見下すような視線で言った。



「あなたがドラコの幼馴染みって本当?」

「・・・」

「幼馴染みなのかって聞いてるのよ」



迫るように聞かれて、ゆっくり頷いた。
すると彼女は勝ち誇ったように笑った。
先ほどからの言動を見て、私はスリザリンに入っても友達はできなかっただろうし、こんな友達は嫌だなあなどと考えていた。
そんな私の考えなどよそに彼女は続ける。



「ドラコ、あなたとは知り合いじゃないって言ってたわ」

「…え?」

「スリザリン以外に入る幼馴染みなんて他人ってことね。可哀想だわ」



まったく哀れんでいないように彼女は言った。
しかし私の口からは何も出てこない。
ショックで、頭が真っ白になってしまった。
ドラコは私を、他人だと思っている。



ドラコが私を呼ぶ声。
人に意地悪をした後にする得意気な笑み。
私の口の周りについたクッキーと払う指先。
ルシウスさんに向ける真剣な表情。
さりげなく合わせてくれる歩幅。
私の手首を掴む彼の手。



全てを否定された気がした。
いや、ドラコは全てを否定したんだ。
じわりと滲んだ涙を止めることはできなかった。
そのまま涙が零れる。
目の前の彼女の顔が笑顔になる。
顔が醜く歪む、その笑みのせいか、私の涙で視界が霞むせいか。



私の名前を呼ぶグレイスの声が聞こえて、スリザリンの彼女は消えた。

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