すきになりたい




「おはよう」

「あれ、ネクタイが曲がってるよ」



みんなが楽しく会話を交わしている中、私は俯きながら歩いた。
入学式にテーブルに突っ伏していたのもある。
誰とも口を聞かなかったのもある。
でも、未だに友達が一人もできていないのには、他にも理由がありそうだった。
私に向けられる視線の中に刺々しいものが混ざっていることには気づいていた。



「なんでハッフルパフに入ったのかしら」

「関わらない方がいいぞ」



きっと原因は私の家だ。
パパはホグワーツの理事にはいないものの、ルシウスさんがいる。
やっぱり私はスリザリンに入るべきだったんだ。
どんなにスリザリンに合っていなくても、どんなにハッフルパフが私に合っていていてもスリザリンに入るべきだった。
そうしたらドラコもいたし、こんな居心地の悪い思いをしなくてよかった。



だけど、きっとドラコは怒ってる。
嫌われてしまったかもしれない。
彼は繰り返しスリザリン以外なんて有り得ないと言っていたから。
女の子の友達ができても自分といろと言っていたけど、今の私は友達がいなくても彼とはいれないんだ。
鼻がツンとした。



「ねえ」

「えっ」

「あなた、ハッフルパフが不満なの?」

「そんなんじゃ…」

「みんなそう言ってるわよ」



目の前に茶色い髪の女の子が立っていた。
多くの生徒が行き来する中で彼女は私だけを真っ直ぐ見ている。
その視線が強すぎて、私の視線は地面に落ちる。
なんで話しかけられてるのか全く理解できないまま地面を見つめている。



「スリザリンに入りたかったんでしょう?あとお偉いさんの息子と幼なじみみたいね。彼もあなたも、財力があるスリザリンの家系らしいじゃない」

「なんで、そんなこと…」

「噂よ、噂。本当なのね?」



私は押し黙った。
首を振ったら私は嘘をつくことになるし、頷いたらまたハッフルパフで余計に浮いてしまうのは明らかだった。
彼女は特に気にする様子もなく話を続けた。



「私、ハッフルパフに入りたかったの。あなたも同じ寮だから、仲良くしたい。どう?」



何を言われているのかよくわからなかった。
でも気づいたら頷いていた。彼女は嬉しそうに笑って私の手を取る。
私は戸惑いながらもその手を握り返した。



「みんなああ言うけど、ハッフルパフに入ったあなたが悪い人なわけないわ。そうも見えないしね」

「そ、そう…?」

「うん!あ、私はグレイス・ベニントン」

「ナマエ・ミョウジだよ」

「知ってる。悪いけど、あなたスリザリンには向いてなさそうね」

「うん…」

「いいじゃない。ハッフルパフだって素敵だわ」



何より楽しそうに笑ってるグレイスが素敵だと思った。
急に心が軽くなったのを感じて、いけないと思った。
ドラコが視界に入ったから。

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