崩れたリズムで舞踏する
「ハッフルパフ!」
長い沈黙の末、帽子はそう叫んだ。
黄色いネクタイをした生徒たちが立ち上がって歓声をあげながら拍手をする。
わあ、と押し寄せるその声に一瞬怯んだ後に私の目に映ったのは、絶望したようなドラコの顔だった。
- - - - - - -
「よし、早く乗らないと出発してしまうぞ」
「ドラコ、ナマエの荷物を積んであげなさい」
「はい」
汽車を前に私の心臓は今にも破裂しそうなほど、ドキドキしていた。
今日から私は、ホグワーツ魔法魔術学校の生徒なのだ。
ルシウスさんに言われたドラコは私の手から荷物を取ると汽車に乗せてくれた。
お礼を言うと、彼は得意気に笑ってみせた。
ママの腕が私を抱きしめる。
「心配だわ…寂しくなったら帰ってきていいのよ」
「大丈夫だよ」
「ドラコ、ナマエのことお願いね」
「そうよドラコ」
「わかっています」
ママとナルシッサさんに言われたドラコはしっかり頷いている。
ママの腕から解放されると次はナルシッサさんに抱きしめられた。
そして次はパパ。
忙しい。
「行ってきます」
二人で汽車に乗り込んだ。
発車してからは四人が見えなくなるまでずっと手を振った。
振っていた手を下ろすと、その手首をドラコが掴んだ。
「席を探すぞ」と言いながら通路をずんずん進む。
私をどこかに連れて行く時に、手でなく手首を掴むのは昔から変わらない。
「クラッブ、ゴイル」
「わあ、ひさしぶり!」
ひとつのコンパートメントに見覚えのある人たちが座っていた。
ドラコの子分のクラッブとゴイルだ。
私たちが入ると二人はこちらを見ながら笑顔を見せた。
「マルフォイにナマエ」
「座るぞ」
「うん」
二人は向かい合わせで座っていたが、入るや否やドラコはクラッブを睨みつけてゴイルの隣に移動させ、そこにドラコが座り、その隣に私が座ったのだった。
コンパートメントの中にはお菓子が散乱していたが、それをつまみ食いするのもなかなか良かった。
私が外の景色を見ていると、ドラコは窓側の自分の席と代わってくれた。
「もちろん僕らは全員スリザリンだよな」
「もちろん!」
ドラコが言えばゴイルが大きく頷いた。
そうだ、忘れていた。
ホグワーツに着いてまずすることは、組み分けされることだ。
どうやって組み分けされるんだっけ?と考えていると、ドラコが私を見た。
「女子に友達ができなくても、僕らと一緒にいればいい」
「なんでよ、ちゃんと女の子の友達作るよ」
「いや、女子の友達が出来ても僕といろよ」
彼の言葉に曖昧に頷いた。
友達が出来る自信があると言ったら嘘になるが、少なくとも作る気は満々であるから、そんな心配は無用なのだ。
というか、ドラコは過保護だ。
私の両親やドラコの両親も私に対してそういう所があるが、それが影響しているのだろうか。
「眠いなら寝ていい」
「よくわかったね?」
「肩貸すから。ほら」
私が驚いていると、ドラコは自分の肩を指差した。
言葉に甘えて頭をそこに委ねる。
汽車の揺れとドラコやゴイル、クラッブの話し声、そして肩の温もりで私はどんどん眠りに引きずり込まれていく。
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