いちごジャムと日だまり
「いいかい、ここでこうして…ほら、できた」
アーニーが得意げになって言う。
そして自分の顔に笑みが広がるのもわかった。
彼が作って見せたのは、シャボン玉だ。
でもただのシャボン玉じゃない。
シャボン玉の中にもう一つ、シャボン玉を作ったのだ。
「すごい、私にもやらせて?」
「うん、もちろん」
彼からストローを受け取って先にシャボン液をつける。
その間、アーニーは自分が飛ばしたシャボン玉を追いかけていく。
日差しにシャボン玉がきらめいて綺麗だ。
私たちの今年の夏のテーマは、私がドラコと一緒ではできないことをする、ということだった。
何があるかな?と聞かれたが、私には到底想像がつかなかった。
私の夏の思い出はドラコで埋め尽くされていて、それ以外は何もないのだから、他に何ができそうかと考えても何も浮かばないのだ。
うーん、と唸る私にアーニーは鉛筆と紙を持ってきて、難しい顔をしながら何かを書き始めた。
夏にやることリスト、と頭に書かれた。
泥遊び、凧揚げ、ジャム作り、枕投げ、シャボン玉、秘密基地作り、鶏の世話、といった感じに延々と続くリストを作ったのだ。
不思議とどれも経験のないものばかりで私の胸は躍った。
楽しいなんてものじゃない。
歌いだしたくなるほどに心が満たされていった。
マクミラン夫妻はとても気のいい人たちだった。
私が家に入るや否や大きく両手を広げて迎えてくれて、ハグしてくれた。
ごはんはとっても美味しいし、ベッドはふかふかで気持ちよく、何も不自由なく暮らしていた。
そして、今日はジャスティンとハンナが遊びに来る。
「こんにちは!」
「僕はジャスティン・フィンチ・フレッチリーです」
「私はハンナ・アボットです、よろしくお願いします」
「あら来たのね。待ってたわ」
ミセス・マクミランが二人を笑顔で迎える。
アーニーはシャボン玉を掴んで割った。
私も彼に続いて庭から家の中に入った。
「ジャスティン!ハンナ!」
「アーニーもナマエも久しぶり!元気だった?」
「うん、わたし、アーニーの家で過ごすのが楽しくて仕方なくて…こんなに楽しいなんて、罰が当たっちゃいそう」
本心だった。
私の言葉にハンナは自分のことのように喜び私を抱きしめてくれたし、ジャスティンも喜んでくれた。
アーニーはと言うと、照れくさそうにしていた。
「そんな、大袈裟だよ」
「あら、嬉しいこと言ってくれるわね…そんなにここが気に入ったなら、うちにお嫁に来てくれてもいいのよ?ね、アーニー」
ミセスマクミランの言葉にアーニーが顔を真っ赤にした。
ジャム作りに使った真っ赤に熟したイチゴを思い出させるほどに。
母さん!と叫ぶアーニーにハンナとジャスティンは楽しそうにケラケラと笑っていた。
私はと言うと、申し訳ないような気持ちになってどうしていいかわからなかった。
恥ずかしいし、でも断っても悪いし、アーニーのことは好きだし…。
困ったように笑うしかなかった。
「ジャスティン!ハンナ!庭に出るよ!」
「はいはい」
「そんな走らなくても!アーニー!」
三人が庭へと駆けていく。
困った笑みを浮かべていた私は出遅れて取り残されてしまった。
「ナマエ、あんな子だけど末永くアーニーをよろしくね」
ミセスマクミランが悪戯っぽく笑ってウィンクしてきたので、私の頬は自然と緩んだ。
私は将来、こんな可愛い女性になりたい。
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