半分の境界線で




「マルフォイ…」



クラッブが僕に声をかけてきたが僕は頭をもたげたまま無言でいた。
今は顔をあげる気力さえない。
どうしたらいいのかと考えた結果に出した結論が正しかったのかはわからないが、僕は結局ナマエの両親に手紙を出したのだ。
あの日の夜、彼女の発した言葉の意図が理解できず、ただあ然としていると、彼女はにこりと笑って階段を駆け上がって行った。
そのままの表情で上を見上げると、ベニントンが階段を登り切ったところで待っていた。
ナマエは彼女のところまで駆けていくと、僕を振り返って「おやすみ」と言った。
戸惑いを隠せないまま僕はゴイルとともにスリザリン寮に戻り、頭を抱えたままベッドに潜り込んだのだが、ひさしぶりに聞いた彼女の「おやすみ」は僕を容易に夢の中に引きずり込むのだった。



「ナマエの両親は何て」

「納得はしてくれた…と思う。まあ、今度は僕の身が危ないかもな」



言葉の通りである。
彼女が家に帰らないと言い出したのは僕のせいだと、なんとなくわかった。
長期休みの時は家族ぐるみで長い時間を共に過ごすから、それが嫌だったのだろう、と僕は憶測した。
そうして彼女の両親を納得させようと思うと、僕が彼女にしたことを全て告白しなければいけないことになる。
悩んだ末に僕はおおまかにだが、彼女を傷つけるようなことを言って今ケンカをしている(もちろん彼女がハッフルパフに入ったことが原因で)という事を伝えたのだった。
しかし問題は彼女の両親ではなく、僕のだ。
確かに始め、ナマエがハッフルパフに入ったことについて父上も母上もあまりいい気持ちがしなかったようだが、昔から可愛がっているナマエのことなので、二人ともあまり気にしないことにしていたらしい。
要するに、彼女がハッフルパフに入ったことに憤慨しずるずると引きずっていたのは僕だけだったわけで、それが原因で彼女を傷つけたことに両親は眉をひそめた。
帰って何を言われるか、今から覚悟しておかなければならない。



「じゃあ今年の夏の間はナマエに会えないんだ」

「そういうことになる。まあ、特に何も変わらないさ」



変わらないわけがないのだが、僕の口は強がりだ。
彼女がいない夏は初めてだ。
そんな夏の何が楽しいんだと考える。
庭を駆けまわって、ときどき日陰で話して、お菓子を食べて、草の上で寝ころんで。
それらが一切消える夏休みはどんなものだろうか、想像もできない。
ナマエとするから楽しいのであって、クラッブとゴイルとやりたいだなんて欠片も思わないのだから。
しかも宿泊先がマクミラン家ときた。
確かに親を納得させるのにはいい。
ただ、あいつがナマエの手を握っていたのを思い出すと、どうしても僕が認めたくない。
彼女の幼馴染は、彼女の隣にいるべきなのは僕だ。



「何も、変わらないさ」



もう一度、復唱した。
その響きが自分でも驚くほど頼りなかったので、僕はまた黙りこむしかなかった。








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雪が消えていくのは悲しい、と思った。
あの見るからに冷たそうな雪の中で遊ぶ友人たちを見るのは本当に楽しかったから、遊ぶ場所が減ってしまうのだな、と思うのだ。
腰がよく沈むソファで温かいミルクを飲む。
安堵のような溜め息が漏れる。



「よかったね、ご両親が許してくれて」

「うん、まさかこんなにすぐ許してもらえるだなんて思わなくて…」



正直な感想だった。
とにかくドラコに仕返しをしてやろうと思い立って口走ってしまった、かなり突発的で計画性のない発言だった。
でも言い終わってしまってから、いままで過保護に育てられて一度も友人の家に滞在したことがない事を気に留めた。
これで許してもらえたらラッキーだ、程度に考えていたので、両親がドラコの言葉にあっさりと納得して許してくれたのは予想外だったのだ。



「で、来るんだろう?僕の家に」

「もちろん!」

「いいな、私たちも遊びに行きたい」

「ああ、みんな遊びに来たらいいよ」



私は夢心地で頷いた。
初めてだ、ドラコ以外の友人の家に行くのも、そこで泊るのも。
今から私の心臓はどきどきしていて、楽しみで仕方ない。
そして両親がアーニーの名前を出して許してくれたことを考えると、本当に彼はいい家系なのだなあと改めて実感するのだ。
疑っていたわけでは、ないのだけれど。



「僕の両親も喜んでる」

「本当?」

「当たり前だけど、ホグワーツでできた友達を家に呼ぶのは初めてだからね」

「でも、居候みたいになっちゃうけど…大丈夫なの?」

「大丈夫さ。別に家に一人増えたくらいじゃ大して何も変わらない。それに、僕の母親は君が女の子だって聞いて喜んでた。僕、一人息子だから」



大して何も変わらないわけがなかった。
一人増えればそれだけ出す食事の量も、洗濯物の量も、何もかも増えてしまう。
それでも快く受け入れてもらえるのかと思うと、心が温かくなった。
さすがハッフルパフ生の家族、いや、さすがアーニーの家族だ。
なんだか同じハッフルパフ生として誇らしくなってくるのだ。



「マルフォイ、ざまあみろ、だね」



グレイスがにやりと笑う。
その隣でジャスティンも同じように口角をあげた。
いつもの私なら、曖昧に笑っていただろうに。
いつの間にか私も同じように笑っていた。
朱に交われば赤くなる、とはこのことを言うのかなあと、ぼんやりと考えた。
別にドラコを嫌いになったとか、そういう話ではなかった。
ただ、みんなと過ごした時間を実感できた瞬間で、私は妙に嬉しかった。



「さあて、この夏は何をしようか」

「いつもナマエは何をして過ごしてるの?」

「うーんと…ドラコと一緒に庭で遊んだり、ドラコの家族と一緒に出かけたり…」

「マルフォイだらけね」



グレイスが呆れたように言って、自然に私の口が歪むのがわかった。
そうか、こんなにも私とドラコはいつも一緒にいたのだ。
少し意気込む。
まさに、これが夏休みにおける幼馴染み離れのチャンスなのだ。



「じゃあ、マルフォイと一緒だとできそうもない事をしようか」

「それって何?」

「考えておくよ」



アーニーの言葉に私は空想を膨らませた。
なんだろう、ドラコと一緒だとできなさそうなこと。
わからないけれど、楽しみな気持ちと躊躇する気持ちが交差して唇を噛んだ。
もう降るのは雪ではなく雨になっていた。

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