懺悔には相応しい




「ねえ、夏の間なんだけど、アーニーの家にいていいかな」



食事をする間ずっと無言だったナマエが口を開いたかと思うと、そんな事を言い出したから僕らはみんな揃って口をあんぐりと開けてしまった。
今彼女は何と言ったのだろうか。
戸惑ってジャスティンの顔を見ると、彼の表情にも困惑が見て取れた。



「え…それ本気で言ってるの?」

「冗談でこんなこと言わないよ…」

「だよね…」

「アーニーの家は由緒正しい純血の家でしょ?両親が許してくれるだろう友達、あなたしかいないの」



申し訳なさそうに言うナマエ。
みんな納得したように頷き、そして視線は僕に向かった。
なんとなく状況は読めた。
そして考えるより早く僕の口が動く。



「わかったよ」








- - - - - - - - - - - - - -










「ナマエ!」



息をきらしながら足を止める。
階段の上の方に探していた姿を見つけたからだ。
名前を呼ばれた彼女は驚いた顔で振り返る。
彼女だけじゃない。
周りにいた男女数名の見開かれた目が僕を捉えた。



「ドラ、コ…」



ナマエの口から零れるように僕の名が出る。
あまりに久しぶりに聞くその響きに僕の心が震える。
しかし、すぐに彼女の隣にいるマクミランが彼女の手を取っているのが目に入って、カッと頭に血が上るのを感じた。



「マクミラン!今すぐナマエの手を放せ!」



僕の言葉にマクミランは口を一直線に結んだ。
ナマエが彼を振り返る。
なぜ彼女は彼の手を振り払わないんだ。
不可解に思ってイライラしていると、背後からどたどたと煩い足音が聞こえた。
そして荒い息。
走るのが遅いので後ろに取り残していたゴイルがやっと僕に追いついたのだ。



「父上に言いつけるぞ!」



痺れを切らしてもう一度叫ぶと、マクミランが顔をしかめた。
しかし、すぐに彼はナマエに向いて少し微笑むと何か言って彼女の手を放した。
そして彼女の背中をそっと押す。
ナマエは少し戸惑うように彼を何度か振り返りながら僕の方まで降りてくる。
心臓がどくどく鼓動している。
それが僕の心臓の音なのか、はたまた違う誰かの者なのかははっきりしない。
「先に行ってるから」と声が降ってきて見上げればそこには長身のベニントンがいた。
その言葉を合図にするように彼らは階段を上がっていく。
ナマエは彼女に頷き返して、そしてまた前進した。



「ナマエ」

「・・・」

「パーキンソンから聞いた」

「…そう」

「あいつは余計なことを…誰も頼んじゃいないのにあんな事を君に言って、迷惑にも程がある」

「・・・」



ナマエは何も言わなかった。
ただ黙って、床かどこかわからないところを見つめている。
二人の間に流れるはずの沈黙はゴイルの息で埋められていた。
彼もただぜいぜい言っているだけで何も言わずに黙っている。



「…僕が悪かった」



半分諦めたような気持ちもあった。
僕の言葉にナマエが顔を上げる。
目は見開かれて僕の目をしっかりと見ていた。
でも彼女は何も言おうとしない。
気まずいと感じ始めた僕はまた話しはじめるしかない。



「僕なりのプライドだったんだ…スリザリン以外に入った幼馴染を認めるようじゃ、みっともないと思ったんだ」



それも理由のひとつだ。
でもそれだけじゃない。
一緒にスリザリンで生活するはずだった。
寮も授業も食事も全部一緒のはずだった。
ナマエの隣にいつもいるのは僕だったし、僕以外ありえないはずだった。
なのに、ハッフルパフなんかに入って。
腹立たしかった。
全部、全部を目の前の彼女にぶつけたいのに、口がついてこない。



「とにかく、悪かった」



結局そんな言葉しか出てこない。
でもどうしようもないから、それだけ言って息を吐くとナマエは苦笑した。
隣でゴイルも苦笑しているのがわかった。
でも確実さっきより、空気が和らいでいるのは確かだった。



「ドラコの言いたいことはわかったよ…わざわざ来てくれてありがとう。ゴイルも」

「ああ…」

「許すよ」

「本当か?」

「うん、ただし条件付きでね」



ナマエは僕の顔を真っ向から見た。
嫌な予感がする。
彼女は口では許すと言っているが、目があきらかに許すような目ではない。
それでも自然に僕は頷いていた。
彼女は笑顔になる、笑っているようには見えない笑顔に。



「今年の夏は家に帰らない。それをママとパパに納得させて」



ああ、いつから駆け引きなんてものを学んだのだろうか。

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