まっ白のままであれ




「なんだって!?」



マルフォイが大声をあげたので、僕も、僕の隣にいたクラッブも飛びあがった。
彼の目の前にいるパーキンソンやその友人のミリセント・ブルストロードも彼のただならぬ雰囲気に怖気づいているようにも見える。



「誰がそんなことを言えと言ったんだ!」

「だって、ドラコが幼馴染みである彼女を迷惑に思ってるから、思い知らせてやろうと思って…」

「余計なことをするな!」



マルフォイはよくぐちぐちと文句を言ったり、ねちっこく嫌味を言ったりするが、こんなに大声をあげて何かに怒っている彼は初めて見た。
いつもキーキーと高くて耳障りな声で話すパーキンソンも、消え入りそうな小さな声で言った。
スリザリン寮の談話室は一瞬にして沈黙に包まれた。
マルフォイは何度か荒く息をしたが、黙ったまま大きく足音を立てながら談話室を出て行った。
彼が去った途端、部屋はざわざわとうるさくなった。



「どうしたんだ?」

「マルフォイがいきなり怒鳴りだしたんだ」

「怒らせたのはあの女の子か?」



パーキンソンの目には涙が浮かんでいて、ブルストロードは彼女の背中をしきりに擦っている。
お菓子を片手に茫然としているクラッブを置いて僕はマルフォイを追うことにした。
そう遠くまで行っていることはないだろうから、すぐに追いつけるだろう。



「マルフォイ…!」



僕が呼びかけても、彼は振り返らなかった。
しかし黙って追い続けると、ふと彼が足を止めた。
ずっと速足に歩いていたからだろう、息があがっている。
止まったのはいいが、両者とも何も口にせず、沈黙が流れた。



「あの…パーキンソンは何と…」

「ハッフルパフ寮はどこだ」

「え?」

「ハッフルパフの寮だよ、校内のどこにあるんだ」

「そんなの知らな…ってもしや行くつもりじゃ…」



僕の言葉にマルフォイは気まずそうに下を向いた。
だいたいが、僕はパーキンソンがマルフォイに何を言ったか聞いていなかった。
こういう時に自分の食い意地と注意力の欠如を悔やむのだが、いつの間にか忘れてしまっているのが常だ。



「ナマエに会いにいくつもり…?」

「ああ」

「この時間なら、まだ寮にはいないかも、しれない」

「…そうだな。まず校内を探す」



僕とは目を合わさずに踵を返すマルフォイの背中を見て、僕はなぜか着いて行かずにはいられなかった。
怒られると思ったが、マルフォイは黙っていた。





- - - - - - - - - -






「もうそろそろ寮に戻らない?」



スーザンが欠伸しながら言った。
積もった雪が月明かりに照らされて綺麗だ。
そうだね、と私が返事すると、えー!まだここにいようよ!とグレイスが叫んで雪に飛び込んだ。
それに続けてジャズティンも飛びこみ、雪に二つの大きな窪みができた。
寒そうで見ていられないわ、とハンナが身を震わせる。
その隣でアーニーはただただ呆れたように溜め息をついていた。



「置いて行っちゃうからねー」

「待って今行くから!」

「うわっ、口に雪が入った…!」



寮へと足を進め始めていた私たちにまず最初にグレイスが追いつき、次にジャスティンが追いついた。
二人とも体中に雪が着いていて、それを払いながら二人で笑い合っている。
彼らが歩いた廊下の床に雪が落ち、これが寮まで続けば、ここで遊んでいた私たちがハッフルパフ生だと特定されてしまうだろうな、と考えた。
まだ一年生なのだし、怒られるのはまっぴらごめんだ。
でも、楽しそうな二人を見ているだけでこっちまで笑顔になってしまう。



「そんなに二人が楽しそうかい」



いつの間にかアーニーが私の隣を歩いていた。
見ればハンナとスーザンは話に花を咲かせている。
私が笑顔のまま頷くと、アーニーも微笑んで彼らに目を向けた。



「君も混ざってやればよかったのに」

「寒そうでとても無理だよ…それに、あなたは呆れてたじゃない」

「別に、君がやりたいなら止めないさ」



建物の中に入っても外気の温度とは差ほど変わらず寒いままだ。
グレイスとジャスティンのローブには依然として雪が着いていたけど、もう落ちることはなく床にも水たまりを作ることもなかった。
二人は元気よく階段を駆け上がっていく。
そんな二人を見上げていたら、階段の段差に足が引っ掛かって転びそうになった。
ただ、すぐに逆の足を出したから転ばずに済んだのだけど、私の心臓は驚いてばくばくしていた。



「大丈夫?君は案外ドジだ」



アーニーが呆れた口調で言うので謝ろうかと思ったが、すぐに声が出なくなった。
右手が彼の左手に包まれていた。
もう転ばないように、とアーニーは言ってそのまま私の手を引く。
男の子に、ドラコと違って手首でなくしっかり手を握られたのは初めてだった。
私の心臓は先ほど転びそうになったせいか、彼の手のせいか、まだばくばくいっている。

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