掠めて消える




魔法史の授業がハッフルパフと合同だと聞いた時は、全身から変な汗が噴き出た。
ナマエと最後に言葉を交わしたのは入学した日、もう何か月も前だ。
動揺したのを誰にも知られないように平然を装おうと思ったのだが、クラッブは困惑したような心配したような、とにかく表情からは読み取れないがとにかく眉をさげて僕を見たのだった。


教室に入るなり目に飛び込んできたのは、あの栗色の髪の女と一緒にいるナマエだった。
見慣れた光景だ、とりあえずあの女がグレイス・ベニントンという名前だということはわかった。
あと長身なので、それほど小柄でないナマエが小さく見える。
最近は彼女の周りにもっと同級生が増えた。
女がもう二人、そして男が二人だ。
一人はアーニー・マクミランといって由緒ある純血の家系の子であると聞いているが、それでも寮がハッフルパフではどうしようもない。
ナマエの後ろの席に座って彼女に話しかけていたマクミランと目が合うと、彼は少し睨むような目つきになった。
なぜ僕が睨まれなきゃいけない?
よっぽど睨みたいのは僕の方だ。



魔法史の授業はいつも聞いていないにせよ、今日の授業は尚更だ。
ナマエは聞いているのか聞いていないのか定かではないが、とりあえず先生の方を見ている。
隣に座っているベニントンは半分寝ていて何回もナマエにぶつかっていた。
授業が終わってみんな生徒ががたがたと席を立ち始めて僕は我に返った。
パーキンソンが僕の肩に手を置きながら「ドラコ、行かないの?」と聞いてくるので僕は苦笑しながら立ちあがった。
見ればナマエも立ち上がり、まだ寝ぼけ眼のベニントンのことを揺すっていた。
マクミランがナマエの荷物を持って隣に立っているのに気づいて僕は思わず二度見してしまった。
なんだ、ジェントルマンになったつもりか!
僕は心の中で叫びながら彼に威嚇の視線を送ったが、彼は気づく様子もない。
気づくまで睨み続けてやろうかと思ったが、パーキンソンに急かされ、しかもクラッブとゴイルからの視線も感じたのでその場を離れざるを得なかった。
マクミランだけではない、ナマエだって、まったくこちらを見る気配がない。
まるで、僕がいないかのように…。



「やっぱりあの子、知り合いよね?」

「だから違うと言ってるじゃないか」

「幼馴染みって噂、聞いたわ」

「誰だそんな根拠のない噂を流したのは」



パーキンソンが満面の笑みになるのを見て不思議には思ったが、それ以上何も感じなかった。
ただまたナマエに視線を向けても彼女はベニントンやマクミランをはじめとするハッフルパフの生徒たちと笑いあっていて僕は腹立たしく思って速足に教室を後にした。
ひさしぶりに聞いた彼女の笑い声が耳に残っていて、夕食を食べた後も、ベッドに入ったあともずっと消えなかった。




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「私、ナマエになってマルフォイと話してみたい」

「・・・」



グレイスがまた変なことを言っている。
ジャスティンが吹き出してげらげら笑い出した。
当の本人は真顔で、いたって真面目に発言したようなので、私はうーんと唸るしかなかった。



「それはまたどうして?」

「きっとマルフォイがいい人になるのは相手がナマエだからだと思ったの。そう思わない?」

「私もそう思う」



ハンナがこくこくと頷いて同意した。
なるほど、そういうことなのか。
そう言えば、ドラコがクラッブやゴイルの手を引いているところや、髪を撫でているところは見たことがない。
そのことを口にすれば「そんなことしてたら気持ち悪いわ!」と叫ぶグレイスと「彼は君にそんな事をするのか!?」というアーニーの声が重なった。
とりあえず曖昧に笑うと、グレイスは気持ち悪いと連呼しながらジュースを口に含み、アーニーは椅子に座りなおした。



「僕は絶対に嫌だよ。優しいマルフォイなんて逆に怖いじゃないか」



ジャスティンは笑いが治まったらしく、口元を押さえながらそう言った。
友人たちの言動からしてドラコのイメージはそうとう悪いらしい。
彼自身がそういうイメージがつくような行動をしているので仕方がないのだけれど。
最初は胸が痛んだものの、慣れとは本当に怖いもので、最近は何も感じなくなってきた。



「思うんだけど、きっとナマエを他人と言ったのだって本気じゃないわ。きっとプライドが許さなかっただけよ」

「スーザンはマルフォイの肩を持つの?」

「ううん、そうじゃないけど…ただ、普通だったら幼馴染みが他の寮に組み分けられただけで絶交なんてしないもの」

「あいつは普通じゃない。それに他の寮って言ったって、やつはスリザリンなんだから一般論は通用しないんじゃないか」



スーザンの発言にハンナは少し不満気に口を尖らせた。
それに続いてアーニーが諭すように言ったので、スーザンも黙ってしまった。
私は正直、スーザンの言葉を信じたかった。
ずっと小さいときから一緒にいたんだから、絶交なんてするはずない。
でもアーニーの言うこともわかる。
マルフォイ家は普通じゃない。
そう言えば、ルシウスさんやナルシッサさんは私のことをどう思っているんだろう。
もんもんと考え始めた私をグレイスが心配そうに見ていたことには気がつかなかった。



「時間が解決するんじゃない?」

「ジャスティン、本当に君は…」



にっこりと笑うジャスティンが、結局のところ一番私の心を安らかにしてくれた。

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