ほろ苦い甘さであった




私たちは黙って俯いていた。
ハンナが時折、何か言いたそうに顔をあげるが、結局何も言わずに下を向いてしまう。
彼女がナマエを励まそうとしているのは見てわかる。



「ごめん、全部聞いてたの」



私が言ってもナマエは怒らなかった。
それどころか、ありがとう、と涙の溜まった目を細めて笑った。
何に感謝されているのか全くもって不明だが、正直もう口もきいてくれなくなるだろうと考えていた私はほっとして嬉しくて笑い返してしまうのだった。
大広間のそとであった出来事をハンナたちに話すとみんな始めは絶句していたが、徐々に励ましの言葉を口にするようになっていた。



「つらいとは思うけど、あなたは私たちっていう友達もいるんだし、寂しくなんかないわ」

「君もそんなことを言う幼馴染みには幻滅だろう?」

「ハッフルパフの方がスリザリンよりいいって見せつけたらいいのよ!」



ナマエは依然として悲しそうな顔をしていたが、友人らの言葉に頷いて笑った。
ハンナはナマエの背中を擦り、スーザンは自分まで涙目になりながらナマエの手を握っていた。
みんなが彼女に声をかけている中でジャスティンだけは言葉が見つからないらしく、おろおろしていたが。



「これ、食べたら元気がでるよ」



そんなジャスティンが翌朝ナマエに差し出したのはキャンディーだった。
真っ先にアーニーが笑いだして、続けてハンナも笑った。
笑われたジャスティンは少し顔を赤らめて怒ったが、そのおかげでナマエも笑顔になった。
その数日後にナマエに届いた手紙を読ませてもらった。
それは彼女の両親からで、手紙にはあなたがハッフルパフに入ろうと私たちの大切な娘です、気にすることなく学校生活を楽しみなさい、愛しているよと書かれていた。
手紙を読み感動して思わず涙が出てきてしまった私にナマエは驚いたが、また空気は笑顔に包まれた。
幼馴染みであるマルフォイが代々スリザリンの裕福な家庭の子供で、彼女も似たような家に生まれたことを考えると、彼女の両親はどんな人たちであるのかマルフォイ一家を見て不安になっていたのだが、なんだか安心した。
そんな両親から生まれたからこそナマエは家系に反してスリザリンらしくない人間に育ったのだと思った。



「ナマエの両親は本当にスリザリン出身なの?信じられないわ」



スーザンがのんびりとした口調で言うが、その気持ちもわかる。
彼女が緑のネクタイに緑のローブを着てマルフォイの隣にあのでかい子分たちと一緒に立っているところを想像しただけで私はぞっとする。
そのことをアーニーに言うと、彼は想像するのも嫌だと心底嫌そうな顔をした。



「君は幼馴染みの悪口を聞いていい気分はしないだろうけど、やっぱり彼は好きになれないね」



アーニーが言ってもナマエは曖昧に笑うだけだ。
だいたいが、マルフォイを好きだなんていうスリザリン以外の生徒はいないに等しい。
あれに好意を抱けと言われても無理がある。
けれど、目の前にいるこの少女は彼の幼馴染みで、彼を大切に思っている。
どうにもこのギャップは埋められそうにない。



「ねえ、マルフォイのいいところって、どこ?」

「どうしたの、グレイス…何か変なものでも食べた?」

「失礼ね、ちょっとでもあなたを理解したいと思って聞いてるの」

「へえ、その話、僕も興味があるな」



言葉通りに興味深そうにアーニーは顔をぐいとこちらに寄せた。
ナマエは困ったように笑ったが、すぐに真剣な表情になって黙った。
そして考えるように手を顎のあたりに置いて視線を空中に漂わせた。
考えなければ彼のいいところは思いつかないのかと笑いだしそうになっていると、ナマエは真剣な顔のまま口を開いた。



「上手く言えないんだけど…誤解されやすいだけで、本当は温かいの」



その言葉に私もアーニーも何も言えなかった。
温かいなんて、マルフォイのイメージの対極にある言葉だ。
言い終わってから照れくさそうに笑うナマエを見て、なんだか呆れ半分に笑えてきた。
私には理解できない領域らしい。



「なんか悔しいね」



ぼそっと言う私にアーニーは黙って頷いた。

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