廊下を歩いているとボーバトンとダームストラングのカップルをちらほらと見かける。
他人の学校で何をやっているんだと呆れる。
しかしザビニはボーバトン生をパートナーに誘うことに成功したそうだ。
三人目でようやく受け入れてもらえたらしいが、ザビニとしたらみんな美人なボーバトンなら誰でもよかったらしく、受け入れてもらえるまで何人でもあたるつもりだったらしい。
「クラッブ、ゴイル。パーティーのパートナーは決まったか」
「僕はまだ」
「グリーングラスと行く」
クラッブは首を横に振り、ゴイルは少し得意そうに言った。
「マルフォイは?」と控え目に聞かれ、僕は顔をしかめた。
自分から話を振ったのは確かだが、あまり振られたくない話でもあった。
僕は答えずに(というか答えられずに)前を見たまま歩き続けた。
すると背後にもう一人影が増えたのを感じた。
「マルフォイ、パーキンソンを誘わないのか?」
声からして明らかにザビニだった。
僕は振り返らずに鼻を鳴らした。
彼は美人なパートナーをゲットして上機嫌なのだ。
何も答えずにいると、ザビニは早足に僕の隣に来た。
「パーキンソンは?」
「しつこい」
「誘わないのか?」
「決めかねている」
「なんでだよ。彼女、誘われるのを楽しみに待ってるぜ」
「君には関係のない話だ」
ザビニはあからさまに納得がいかないといった顔をした。
僕はそれ以上何も言う気になれずにまた足を進めるが、すぐに一瞬前に進むのを躊躇った。
奥のホールにこの方ずっと見たいと願っていた姿が見えたからだ。
喜びと驚きと焦りと、色々なものが渦を巻いていく。
話しかけようか。
彼女を助けたという恩もあり、面識もあるということで不自然ではないだろう。
僕のことはちゃんと、認識しているようであったし。
しかし、次の瞬間、そんな考えは吹っ飛んでしまった。
彼女の向かいにいたダームストラングの生徒が彼女を手を取り上げて、その甲にキスを落としたのだ。
何か固いもので頭を殴られたようなショックが襲う。
思わず足を止めて茫然としていると、彼女が以前と同じように二人の友人と一緒にこちらに歩いてきた。
僕がいきなり足を止めたことによりザビニは驚き、クラッブかゴイルどちらかが僕の背中にぶつかった。
彼女は僕の顔を見ると一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに微笑んだ。
また心臓が止まりそうになる。
うまく笑えていたかはわからないが、恐らく僕は引きつった笑みを彼女に向けた。
くそ、格好悪いじゃないか。
そのまま僕たちはすれ違った。
また歩き出す僕にザビニが興味深そうに聞く。
「君、あの子と知り合い?」
「顔見知り程度だ」
「へえ、俺あの子に誘いを断られたんだよな。やっぱりすぐ誘われるんだな」
ザビニの言葉に顔を歪めた。
もう彼女には踊る相手がいるのか。
きっと先ほどのダームストラングの生徒に違いない。
そうだ、彼女はすぐに誰かに誘われるに決まっていた。
なのになぜ僕はすぐに行動しなかったといえば、少し言葉を交わしただけの彼女を誘ってもいいのかという迷いがあったわけで。
(僕は腰抜けじゃない。)
「もうボーバトンは余ってないだろうな。パーキンソンを誘ったらどうだ。君に誘われるまで誰からの誘いも断るつもりじゃないか」
別にボーバトンの生徒と踊りたいがために、今にもなってパートナーがいないというわけじゃない。
ただ、僕は彼女と踊れたらどんなに良いことかと。
こんなことをしていたら、いよいよパートナーが決まらないと思い、僕はパーキンソンを誘う決意を固めざるをえなくなってきた。