私は目の前でにこやかに話すエムリーヌとダームストラングの男の子をぼんやりと見ていた。
ホグワーツのある英国がこんなに寒い場所だとは思わず、私は右手を左手で擦りながら立っていた。
空は厚く白い雲に覆われていて、いかにも寒々しい景色だ。



「失礼」



頭上から声がして見てみると、ダームストラングの生徒が隣に来ていた。
ブルガリアのクィデッチチームの彼(名前は忘れた)ほどではないが、がっしりとした体型は見て取れた。
私に用があるらしく、彼は自分の胸元に手を添えて私の方へ少し屈んだ。



「エゴール・ホトキンといいます。よかったら僕のパートナーになってくれませんか」



ダンスパーティーのパートナーのことに違いない。
このパーティーが開催されるにあたってもちろん踊る相手が必要なわけで、こうやって男の子たちは誘うわけだ。
私は笑顔を心がけながら、いかにも残念そうな顔を作って首を横に振った。



「ごめんなさい、もう他の方に誘われてしまったの」

「そうですか…」



彼は落胆したように肩を落とした。
とても申し訳ない気持ちになる。
しかし彼は顔をあげて「わかりました、ではまた会った時は声をかけてください」と言って、頭を下げて去っていった。
私は名前は覚えられないものの、顔は覚えなければと彼の顔を注意深く見たのだった。
その去っていく背中をぼんやり見ていると、ぐいとエムリーヌに手を引かれた。
はっとする。



「部屋に戻るわよ」

「あ、うん」



ふらっといなくなっていたモニクもいつの間にか合流していて、私たちは廊下を歩いて自室へ向かっていた。
ホグワーツの中ではなんだか私の制服は異様に目立つ気がする。
もちろん良い意味ではなく。
そういえば先ほど私を誘った男の子は、私に名乗ってくれたのに私は名乗らなかったな、と申し訳なく思った。
まあ、名乗られても覚えられないのだから意味がないのだけれど。



「ああ、寒すぎて嫌になるわ」

「凍ってしまう」



自室に入った途端エムリーヌは顔をしかめながら椅子に腰掛けた。
本当にホグワーツは寒い。
暖かな我が校があるフランスが恋しくなるほどここは寒かった。
出るときにはマフラーと手袋が欠かせないし、吹きつける風が顔に刺さってチクチクする。
それをハッフルパフの子たちに言ったら「君らは南国に住んでるのかい」と笑われてしまったが。
彼らにはこれが普通らしい。



「ナマエ、あなた踊る気がないの?」

「え?どうして」

「誘ってくる人みんな断って踊る気がないようにしか思えないわ。それとも理想が高すぎるだけ?」



エムリーヌが怪訝そうに聞く。
実は先ほど私を誘った彼は、三人目であった。
しかし全員、もう踊る相手がいると言って断っているのだ。
別に踊る気がないわけでもなく、理想が高すぎるわけでもない私は困って何も答えられなかった。
話題を変えようと、私は座り直しながら口を開いた。



「そういえばエムリーヌは今日誘われた彼と行くの?」

「そうよ。デニスといって、ダームストラングの六年生だわ。とっても男前だったでしょう」



当たり前だ。
面食いなエムリーヌが踊る相手が男前じゃない方がおかしい。
二人で並んで話しているのを見たとき、美男美女だなあと思っていたのだ。
エムリーヌは彼のことを思い出したのか一瞬うっとりとした表情をしたが、すぐにベッドの上で本を読んでいるモニクに鋭い視線を送った。



「あなたもよ、モニク。もう何人の誘いを断ったのよ」

「五」



さすがモニクだと思った。
彼女は本当に端正な顔立ちをしているからモテるに決まっている。
もちろんエムリーヌも綺麗だが、お高く止まった性格が見て取れる感じ顔だ(そんな彼女も好きだから友達なんだけど)。
モニクはだるそうに本を脇に置いて、なぜか私の顔を凝視した。



「私はナマエと違ってただ踊る気がないだけよ」

「踊る気がないですって?せっかくのパーティーなのに?」

「ええ。まあ、ハリー・ポッターに誘われたら踊ると思うわ」



その言葉に私はどきりとした。
私の隣でエムリーヌは声をたてて笑っていたけど、私はとうてい笑えなかった。
私は、どこかで彼が誘ってくれることを期待しているのだ。
彼、綺麗なブロンドの髪をした、緑のネクタイの彼。
自分でも馬鹿げていると、そんな一言二言だけ言葉を交わした名前も知らない人を誘うわけがないと、わかっているのに。
私はどうしても他の人からの誘いを受け入れられない。



「ホグワーツは共学なのだから、自分たちの学校で組むに決まってるわ。女子校のボーバトンと男子校のダームストラングが組むのが無難だし、それが自然よ」



エムリーヌが呆れたように言う。
そうかもしれない。
私は俯いて考えた。
パーティーには出席して、踊りたいと考えている。
もう夢みたいな希望は捨てて、次誘ってくれた人をパートナーにしよう。
そう思って私は一人で無理やり頷いた。

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