「ナマエ、このパイ美味しいわよ」



隣でエムリーヌが言葉通り、とっても美味しそうにパイを食べていた。
ミートパイかな。
そう考えながらもあまり食は進まなかった。
ここのハッフルパフのテーブルから一番遠いテーブルに、緑のネクタイをした生徒がダームストラングの方々と食事をしている。
彼がしていたネクタイの色だ。
その姿を思い出して俯いた。
するとエムリーヌがパイを切る手を止めて私の顔を覗き込む。



「どうしたの?顔が赤いわ」

「な、なんでもないよ」



顔が赤い、か。
私はどうかしている。
気を紛らわそうと彼女が勧めるパイを一口食べた。
美味しくて驚いてしまった。
そこでエムリーヌが向かいに座っている男の子と話している内容が気になって私は耳を傾けた。



「ホグワーツでは寮で生徒が分けられているのね」

「ああ、君たちは?」

「そんな制度はないわ」

「へえ。僕らは入学時に組み分け帽子によって四つの寮に分けられるんだ。それぞれの性格や素質を見てね。グリフィンドール、スリザリン、レイブンクローそして僕らハッフルパフ。心優しいハッフルパフさ」



エムリーヌは興味深そうに頷いた。
私は思わず、緑のネクタイの人たちの寮は何という名前で、どんな人たちが入る寮ですか、と聞きたくなった。
もちろんそんなことは聞けるわけがなく、仕方なしにまたパイを一口食べるのだが。
彼の言葉通り、ハッフルパフとは心優しい人たちの集まりのようだ。
先ほどから寒くないかとかジュースは足りているかとか、何かと気を使ってくれて私は胸がいっぱいだった。



「君たちの学校は生徒を選ぶ時に顔も考慮に入れてるのかい?」

「え?まさか、そんなことはないと思うけど…」

「だってボーバトンは美人ばかりだ」

「そうかしら。これが普通だと思うわ。違う?」



隣に座っている男の子に話しかけられたので応えていたら、エムリーヌが口を挟んだ。
私は曖昧に首を傾げる。
確かに、ボーバトンには美人が多いと思う。
私みたいにハズレが混ざっていることもあるけれど…。
私の向かいで黙々とチキンを食べているモニクも、物凄く綺麗な顔をしている。



「モニク、美味しい?」

「まあまあ」



彼女は少しこちらに視線を向けてから短くそう言った。
ハッフルパフの男の子が苦笑してる。
先ほどみんなで互いに自己紹介をしたのに、私はどうも人の名前を覚えるのが苦手で、私の隣の男の子も、エムリーヌの向かいの男の子も、モニクの隣の女の子の名前も忘れてしまった。
いや、女の子の名前はハンナだったかしら。
自分の記憶力の悪さに呆れてもう一度名前を聞こうかと考えていると、エムリーヌが少し声を潜めて言った。



「もしかして、あれがハリー・ポッター?」



見ると、そこには丸い眼鏡をかけた男の子が周りの生徒と談笑していた。
額には傷がある、気もする。
ここからではよく見えない。
意外と普通の男の子だな、というのが率直な感想だった。
彼がかの有名なハリー・ポッターなのかとまじまじと見ているとモニクがチキンから手を離して同じように彼を見ていた。
彼のネクタイの色は赤だ。



「ああ、あれが有名なハリー・ポッターだよ」

「ハンナ、君は彼と話したことがあるだろう?」

「少しだけ、ね」



やはりこの女の子の名前はハンナだったとわかり勝手に嬉しかった。
彼女は「彼はいい人よ」と言って微笑んだ。
こんな言い方をしては失礼だが、ホグワーツの女の子はボーバトンほどの美貌はなくとも、素朴な可愛らしさがあるような気がする。
可愛い。



「まさか本物を見れるなんて思わなかった」

「今まで話でしか聞いたこと、なかったしね」

「話しかけてみたら?」



男の子が言って私たちは顔を見合わせた。
女性の私たちからそのような話を振るのは淑女として相応しくない行動に決まっている。
とうてい出来るはずもなくエムリーヌはパイ、モニクはチキンにまた手を伸ばすのだった。

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