「どうかしら」



エムリーヌの弾むような声に振り向き、その姿に私はすぐに笑顔になった。
水色のドレスは彼女の白い肌によく似合う。
うっとりしてしまって無言でいたことに気づいてはっとした。



「すごく素敵!」

「本当?」

「うん!さすがエムリーヌ、似合わないことはありえないと思ってたけど、すごく似合ってる!」

「ありがとう、デニスも気に入ってくれるといいんだけど」



デニスとはたしかエムリーヌのパートナーの名前だ。
何度も会話に彼は登場するので、さすがの私も覚えた。
とても美しい彼女でさえ、自分の装いに不安を覚えることがあるのだな、となんだか変な親近感が湧いてしまった。



「フラーのドレス見た?」

「ええ、見た」

「なんか、天国にいる人を見たようだったわ。死んだ人ってわけじゃないわ、とにかく現実離れしてて神々しかったのよ」

「本当。さすがね」



フラーは我が校で最も美しくて聡明で崇高な人間であるから、神々しいのは当たり前だ。
パーティーでは代表選手として初めに踊るわけだし、かなりドレスを選ぶのには時間を要したようだった。
ボーバトンは生徒のために何百着を超えるドレスをここホグワーツに送ってきた。
ドレスを持参している者もいれば、そうでない者もいるわけで。
エムリーヌは完全に新調したものを用意していたのだが、私はもはや学校に頼り切っていた。
そこまでパーティーになど興味が持てていなかったのだ。
ドラコに、出会うまでは。



「で、ナマエあなたどれにするの?」

「うーん…わからない、また今度探すわ」

「何言ってるの昨日もそう言ってたわ。それにもうパーティーまで時間がないのよ」

「わかってる…けど…」

「今日こそドレスを決めるわよ。いい?」

「うん…」



ドラコはどんな色が好きなんだろうか。
露出はした方がいいのか、むしろ控えた方がいいのか。
キュートが好み?それともエレガント?
選ぶのにはかなり悩むのは目に見えていて、私はまだドレスを見始めてもいないのに頭を抱えていた。
彼はきっと自身の寮で人気者のはずだ。
そんな彼のパートナーなんだから、それ相応の人間にならなければ、いけない。



「さ、どんなドレスがいいのかしら」

「ごめ、私、先にお手洗い行ってくる…」



長丁場になるだろうし、髪型がぐしゃぐしゃだと嫌だし、とにかくひとまず冷静になろうと考えて部屋を出た。
エムリーヌは呆れていたが、私は申し訳なく思いながら廊下を歩く。
そう言えば、モニクは何をしているのだろうか。
英国紅茶を堪能しにどこかのお茶会に参加しているのだろうか、それともまた気まぐれで校舎の中を歩き回っているのか。
もうすぐお手洗いかと思う角を曲がると、見覚えのある顔が目に入った。
灰色の髪に、がっしりとした肩。
あれはたしか、ダームストラングの、



「やあ、ひさしぶり」

「え、ええ、こんにちは」

「…僕のこと、覚えてるかい」

「もちろん、ええっと」

「エゴール。エゴール・ホトキン」

「そう、エゴールよね、覚えてたわ」



大嘘だ。
よくこんな嘘を平気でついているなと自分でも呆れるが仕方ない。
エゴール、そう、この目の前にいるダームストラングのエゴールという青年は私に何の用があるのだろうか。
彼の周りにいた数人の生徒たちは私の顔を見てそそくさと去って行った。
そのうちの一人は少しエゴールと目配せをする。


「君、パーティーのパートナーはもういるそうだね」

「そうだけど…」

「名前は?ダームストラングかい?」

「いいえ、ドラコ・マルフォイ、ホグワーツの生徒よ」


私の言葉に彼は少し顔をしかめた。
でもすぐに笑顔を作って、そうか、と呟くように言った。
ダームストラングらしい、がっしりした体つきだ。
エムリーヌのパートナー(あれ、名前を覚えてたはずなのに忘れてしまった)ほど美男子だなあと思うほどではないが、顔だちは整っているように思う。
そんな彼は以前のように私の手の甲にキスを落として去っていった。
首をかしげならトイレに入る。



「あっ」


黒い髪の女の子が私を見て目を丸くする。
見覚えのない人であるが、私と何か関係のある人だろうか。
鏡に向かって、髪留めをとめなおす私を見ていたその女の子は、しばらくそうしていたが、素早くくるりと回れ右をしてトイレを出て行った。
今日は、変な人が多い。

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