ナマエの隣を歩くというのは、とても満たされた気分になることだった。
ザビニはボーバトンのパートナーを作っておきながら、よく僕に恨みごとを言ったが、僕にとってそれは逆効果であった。
僕が口の端をあげれば、彼は溜め息をつきながら黙る。
前にゴイルがグリーングラスと踊るという話は聞いたが、クラッブはまだパートナーが決まらないらしい。
彼に情けをかけてナマエに彼のパートナーを探すように頼むこともできるが、正直なところ彼とボーバトンの生徒を並ばせてはいけない気もするし、彼を受け入れる生徒がいるとは思えない。
ここはやはりホグワーツ内でどうにかするのが賢いだろう。



「もし私がホグワーツに入っていたら、どの寮に入っていたと思う?」



それは何度目かに会った時に、彼女にされた質問だった。
答えに詰まってしまう。
すぐに、グリフィンドールが脳裏を過ったからだった。
どうしても思い浮かぶのがあの憎い寮だったのだ。
レイブンクローには入らないだろうというのは直感だ。
もちろんスリザリンにいるはずはない。
そしてあの劣等生の集まりであるハッフルパフにいるはずもない。
残るのがグリフィンドールというのもあるが、あのローブを着ている彼女が容易に想像できてしまったというのが大きい。



「あの時の質問、覚えてる?」



左で彼女の声がしてはっとした。
見ればナマエが不思議そうな顔をして僕の顔を見ていた。
あの時の質問は、あの質問に違いない。
僕は結局答えられなかったのだ。
寮に組み分けられる制度が珍しいと感じるらしく、ナマエはかなり興味を示しているようだったから、こうしてまた訊くのだろう。
「覚えてるさ」と僕が言えば彼女は安堵したような表情になった。
そして僕は困り果てて視線を空にやる。



「じゃあ訊くが、君はどこの寮に入りたいんだ?」

「え?」



ナマエは予想していなかった質問だったのだろう、目を丸くした。
うまく切り返したと思った。
絶対にグリフィンドールだなんて口が裂けても言いたくない。
しばらく悩むだろうと思っていたが、ナマエは少しはにかんで言った。



「スリザリンがいいわ。だってドラコと一緒だもの」



面食らった、という表現が相応しい。
僕は本当に面食らって何も言葉を発することができなかった。
するとナマエの頬が少し赤い気がして、僕の口角は上がってしまった。
ここは男の僕がうろたえてしまっては格好がつかないから、口調を柔らかくして「ありがとう」と言った。
彼女は無言で頷く。



すると、僕が先ほどまで想像しながら嫌な気分になっていた赤いローブが目に入った。
それで赤毛も見えたんだから気分は最悪だ。
前から相変わらずのグリフィンドールの三人が歩いてきたのだ。
何か文句をつけてやりたくなる気持ちをぐっと堪えて、なるべくそちらを見ないように心がけた。
しかし、そういう時に限って望まないことが起きるのだ。



「ドラコ、ちょっと待って」



ナマエが僕の袖を掴むとポッターたちの方へ一直線に歩き出したのだ。
止まりたいがそうも行かない。
僕がボーバトンの女子をつれてアプローチしていくのだ、彼らも驚いた顔でこちらを見る。
何かよからぬことが起きそうだ。



「ハリー・ポッターさん、ですよね」

「はあ…」

「はじめまして、私はナマエ・ミョウジです。あなたにお願いしたいことがあるのですが、いいですか?」

「お、お願い?」



僕はじんわりと変な汗をかきはじめていた。
ナマエがポッターにお願い?
それも初対面で、このポッターとやらに何をしてもらいたいだろうか。
僕はじっと二人を見つめているが、それはウィーズリーやグレンジャーも同じであったようだ。



「私の友人があなたに誘われない限り踊らないと言ってるの。いいえ、あなたがいいと言うか、あなたが誘うなら踊るって…失礼で申し訳ないわ」

「いや、いいんだ。でもごめん、僕にはもうパートナーがいて…」

「そうですか…」



しゅんと項垂れるナマエを見て僕は無性にポッターに腹が立った。
誰と組んだのかは知らないが、ここはナマエの願いを聞き入れるべきだと叫んでやりたいが、それでは彼女を驚かせてしまう。
またぐっと堪えていると、少しの沈黙ののちにウィーズリーの間の抜けた声がした。



「マルフォイ、パートナーの女の子といると大人しいじゃないか」

「そんな冗談はよせよ」



気付いたら笑顔で返していた。
ウィーズリーの表情が凍りつくのがわかる。
他の二人も顔を強張らせてこちらを見たが僕は微笑み続けた。



「そんなことより、今日は昨日と違っていい天気だな」



じょわじょわと背中で鳥肌がたつ。
天気がいいだと?
なぜそんなことをウィーズリーに言わなければならないのか不明だが、もう後戻りできないところまで来てしまっていたから僕はそう言った。
彼らに天気の話をしたことなんてあったろうか。
いや、天気の話どころか、普通の他愛のない雑談ですらしたことがないのに。



「マルフォイ、顔がひきつってるぞ」



ウィーズリーが何か気味の悪いものを見るかのように僕を見るので、やつのつま先を踏みつけてやった。
「ドラコ、体調が悪いの?」と言って振り返るナマエ。
その間にウィーズリーが悲鳴をあげたので、僕の行為は見られていなかったようだ。
彼の悲鳴に驚いたナマエが見ていない隙に彼を嘲笑った。



「そう言えば、君はフラー・デラクールに誘いを断られたそうだね。残念だったけど、君にはもっといいパートナーがいるさ」



ボロ雑巾のようなお前に相応しい相手がな!と心の中で言う。
すると、ナマエが困ったような顔で「フラーはレイブンクローのロジャーと踊るそうなの、ごめんなさいね」と言っていたが、僕は笑いを堪えるので精いっぱいだ。
ウィーズリーの顔が少し赤くなって苛立ったように歪むのが面白い。



「引きとめてしまって悪かったね。さあナマエ、行こうか」

「また一緒に話してくれよ。なあ、僕らの友人の腰ぬけイタチ」

「ああ、またな」



彼らがにやにやと笑っているが僕は必死に笑顔を作った。
さようなら、と手を振るナマエが僕を見ていないのを確認して彼らを思いっきり睨んでやるが、彼らの顔からあの憎たらしいにやにやした表情は消えない。
早くこの場を離れるべきだというのはわかりきっているので、僕は早足で歩き出した。
ナマエが駆け足でついてくる。



「イタチって何かしら?最後に彼が言ってたじゃない」

「僕のあだ名だよ…ほら、イタチの毛はコートのファーに使用されるほど艶やかだろう?僕の髪と似ているのさ」

「そう、なるほどね」



自分の頭を思いっきり殴ってやりたい気分だ。
イタチが僕のあだ名だなんて吐き気がするが、これも仕方のないことだ。
仕方のないことで済ませられる自分にも驚き、また一方で僕はナマエに嫌われないためにはここまでできるのだとわかって驚いた。
あの三人になんとかして仕返しをしたいと考えていたが、僕の説明に納得して笑顔になるナマエを見ると、そんなことはどうでもよくなる。

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