悲鳴が出た。
ただ、聞いた瞬間に全部全部否定したくなって気付いたら叫んでいたのだ。
周りにいる生徒が驚いて振り返る。
驚いたグリフィンドール生が階段を踏み外して転んでいたが、良い気味だとか、そんなことを思う余裕さえなかった。
私は両耳を押さえてしゃがみこんだ。



「嘘、でしょう…」

「ううん、ザビニがそう言ってたから、間違いないと思う」



ミリセントが苦虫を噛み潰したような顔で言った。
嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ。
何度も何度も心の中で繰り返す。
たった今、ミリセントが真っ青な顔で私のもとに走ってきて、切迫したような口調で教えてくれた。
ドラコが、ドラコがダンスパーティーのパートナーにボーバトンの女を選んだらしい。
私じゃなくて、ついこの間ホグワーツにやってきたあの学校の女を。
以前あったパーティーでは私を誘ってくれたのに、だから今回も絶対に私を誘ってくれると思って待ってたのに。
ゴイルと踊ることにしたダフネのことを笑っている場合ではない、私には誰もパートナーがいない。
目の前にいるミリセントはダームストラングの生徒と踊ると言っていた。
私は、ドラコと踊ると思って、たった一度受けた誘いを断った。
だって私は彼以外の誰かと踊るなんて考えられなかったんだもの。



「大丈夫、誰かが誘ってくれるわ…ダームストラングで探してもらう?」

「いいの、そんなの…それよりドラコが…!」



胸が締め付けられるように痛い。
握られた拳がふるふると震える。
手のひらに爪が食い込んで痛みさえするが、それでも手の力を緩めなかった。
涙は出てこない。
ただ怒りだけがふつふつと湧いてきて、気付いたら私はミリセントの手を掴んでいた。




「あの女を探しに行きましょう」








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「なんだよ、君はボーバトンに興味がなさそうだったじゃないか」



ザビニは不服そうに言った。
なんせ、彼が誘いを断られた彼女を、僕がパートナーにしたのだから。
「僕の友人が君を誘って断られたと言っていたよ」と彼女に言えば、「本当は踊る気はさらさらなかったのだけれど、あなたに誘われて踊る気になったの」と返ってきた。
それを聞いて僕が喜びのあまり頬が緩んでしまったのは言うまでもない。



「僕がボーバトンの生徒と踊っちゃいけないのか」

「そういうわけじゃない…それにパーキンソンはどうするんだ」

「どうするって、何が」

「だから、君の誘いを待ってるって前も言ったじゃないか。気付かなかったのか?」

「気づいてたさ。でも僕の知ったことじゃないね。事前に約束していたわけでもない、彼女が勝手に期待していたことじゃないか」

「まあ確かに…でも今ごろ焦ってるだろうなあ」



僕は鼻を鳴らした。
こんなに誰かに好かれることを煩わしく思ったことはない。
パーキンソンが僕を望んでいたって、僕が望んでいるのはナマエなんだ。
それは変えようがない。
でももし、僕が好意を寄せていることに対してナマエが「そんなの知ったことじゃないわ」と言ったなら、と思うと僕は急に罪悪感に苛まれる。
傷つくとかいう程度の話じゃない。



「もうこんな時間か」

「どこかに行くのかい?」

「ああ、ナマエと会う約束をしている」

「へえ、それは良かった」



しっしっと手で僕を追い払うジェスチャーをするザビニに笑顔を向けてやった。
何とでも言ってくれ。
今の僕に何を言おうと、落ち込ませることはできないのだから。










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「ナマエ・ミョウジっていうそうよ」

「容姿は?」

「それが、私もそこまで知らなくて…」



ミリセントと走りながら私は歯ぎしりをした。
探し始めたものの、彼女を特定できるものが何もない。
しかも、彼女を探し当てて何をするかも、何も考えていない。
ただ、この目でどんな女なのかを見てやりたかった。
その後どうなるかは、二の次なんだ。



「あ…!いたわ」



背後でミリセントの声が聞こえて私は振り返った。
彼女の横顔には驚きのような、それでいて何か美しいものを見ているような、うっとりとした表情が見て取れた。
眉間にシワを寄せて彼女の視線の先を辿ると、見慣れたスリザリンのローブと青いワンピース型のコートが並んでいた。
彼女に違いないとすぐに勘づくのは容易だった。



その女はドラコの顔を見上げながら笑っていた。
容姿は、ものすごく美人というわけでもなかった。
むしろあのボーバトンの中だったら下の方だと思ってしまう。
でも二人の姿を見た時、不覚にもミリセントの表情の意味を理解してしまった。
妙に画になっていたのだ。
まわりの景色は寒々しいのに、彼らのまわりだけ明るいような、なにか輝きがあった。
そして私は息を飲む。
ドラコが今までに見たことのないような顔をしていた。
笑っていた。
いいえ、笑った顔ならいくらでも見たことがあったのだけれど。
やわらかく、目を細めていた。
何か、とても大切なものを見るような、そんな瞳。



気付いたら頬に涙が伝っていた。

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