「やっとパートナーが決まったのね、よかった。本当に心配してたんだから、安心したわ」



エムリーヌが言葉通りほっとしたように笑いながら薄めのクッキーを口に含んだ。
このクッキーはボーバトンのあるフランスから送られてきたもので、他にもたくさんの種類のお菓子もきた。
フラーが英国のお菓子よりフランスのものが好きだと発言したのが発端らしいが、慣れ親しんだ土地の食べ物が食べられて私たちも嬉しい。
一方、モニクはそうとう英国の紅茶を気に入ったようだ。
ミルクを入れたり砂糖を入れたり、毎食、そして暇さえあれば紅茶を飲んでいる。
初めてホグワーツで食べたチキンの数千倍は美味しいんだとか。



「どんなイケメンを捕まえたのかしら。あら、もしかしてビクトール・クラムだったら叫んじゃうわよ」

「え…いや、その人じゃないの」

「あの、この間のダームストラングの彼?あなたの事かなり気に入ってたみたいじゃない」

「ううん、その人でもない」



私の返答にエムリーヌは首を傾げた。
ビクトール・クラムとは、きっとダームストラングにいるクィディッチのスター選手のことだろう。
しかも彼は代表選手に選ばれていた、そんな人が私と関わりあうはずがない。
ダームストラングの彼とは、以前声をかけてきた彼だろう。
二度目に会った時は丁寧に挨拶してくれて、そのうえ手の甲にキスまでしていただいた。
エムリーヌからすればとても紳士的で好感が持てたらしく、彼を私に勧めていた。



「また違う人?」

「あの、私が転びそうになったときに助けてくれた人」

「…え?彼ってホグワーツじゃない!」

「そ、そうだけど」

「どうしてダームストラングじゃないの?」

「どうしてって聞かれても…」

「彼に何か魅力を感じたのね、それもあのダームストラングの彼を上回る何かを」

「うーん…まあそんな感じかな…」



エムリーヌは大きな目をもっと大きくさせて頷きながらそう言った。
ダームストラングの彼を上回る何かじゃない。
彼にしか感じなかった何かが、あるんだと思う。
どん、と音がして見てみるとモニクが失望したような顔で私を見ていた。
音の正体はたぶんテーブルの上に落とされた本だ。



「ナマエ…パートナーを作ったのね」

「何そんな顔してるの、次はあなたの番よ」

「私、ナマエとパートナーいない同士で踊らずずっと食べてようと思ったのに」

「モニク、本当にパートナーを見つけないつもりなの?」

「そのつもりだけど」



モニクの落胆は容易に見て取れた。
花より団子とはこのことを言うのだろうか。
彼女をがっかりさせてしまったのは申し訳ないが、やはりこのような催しにはきちんと参加する方がいいと思う。
理由を聞かれても上手く答えられないけれど。
地面を彷徨っていたモニクの視線が私に向いた。
もうその顔に失望や落胆の色はなく、私はほっとした。
モニクはからっとした女の子だ。



「彼、なんていうの」

「ドラコよ。ドラコ・マルフォイ」

「あなた珍しく人の名前を覚えているじゃない!」

「へえ、寮は?」

「スリザリンって、あのカラーが緑の寮」

「スリザリン…聞いたことはあるね」

「どんな人なの?」

「うーんと…まだ少ししか話したことないから、あんまりわからない」



次々に質問されどぎまぎしてしまった。
意外と私のパートナーについてモニクは関心を示しているようで、彼女は体を前に倒しながら目をしっかり見て聞いてくる。
聞かれて気付いたが、よく考えれば彼の事を私は何も知らないように思う。
名前はドラコ・マルフォイ、ホグワーツの四年生でスリザリンという断固たる決意を持つ者が集う寮に所属している。
お父様がお偉いさんで、家系がいいらしい。
らしい、と言うのもつい今日彼に聞いた話だからだ。
それしか知らない、と思った。
言葉を交わしながらしばらく校内を歩いたから、少しだが近づけたと思っていた。
しかし、そうでもなかったようで私はがっかりした。



「でもナマエ、あなた彼のことあまり知らないわりには、彼の事をとても嬉しそうに話すのね」

「えっ」

「好きなんだね」

「そんなん、じゃ…」



二人が真顔で言う。
顔に熱が集まるのを感じながら私は立ちあがった。
そんなんじゃないんだからね!と叫ぶ私に二人は楽しそうに笑っていた。

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