寝る前に談話室への階段を下りて行くと、話声が聞こえた。
誰だろうと思って近づいていくうちにわかった。
この声はマルフォイ。
そしてもう一人は…



「ナマエ!もう部屋に戻ったんじゃなかったのか」



ザビニだ。
なんだかこの二人はなんだかんだ言って一緒にいる感じがする。
親友とか、それ以前に友達といった感じはあまりないのだけれど。
私は笑った。



「うん、何か食べるものないかなって」

「君は相変わらずの食い意地だな」



マルフォイが言った。
確かに、私はお菓子などの食べ物が大好きだ。
いつもクラッブとゴイルと三人で、この談話室でむしゃむしゃ食べる。
そしてその隣でマルフォイが今日あった話(とくにポッターの悪口やウィーズリーの悪口や…とにかく悪口)を得意気に話すのを聞いている。
私はそんな時間を幸せと感じていた。



「ミョウジ、今日の君のグレンジャーへの悪戯は最高だったよ」

「ああ、あいつ気がどうにかなりそうになってたぜ」



マルフォイとザビニが思いだしたように笑った。
確かにすごかった。
クモを浮遊させ、彼女の髪に入れたらグリフィンドールの生徒がパニックになった。
ウィーズリーの顔なんか、本当にすごかった。
こうやってマルフォイが喜んでくれるのが、私は嬉しい。
だから彼が喜んでくれるようにいろいろな悪戯を考えるのが常なのだ。



「今度グリフィンドールとの合同授業で、呪文の実践という名の決闘クラブのようなものがあるそうじゃないか」

「おお、さすがマルフォイ、楽しみみたいだな」

「あたり前だ。対決したやつは、みんなの前で恥をかかせてやるさ」



マルフォイは対戦が大好きだ。
特に相手がグリフィンドールだと。
いつだかの、本当の決闘クラブではポッター相手に苦戦したところもあったが、あれは負けたわけではない。
だいたいが、最後まで出来なかったのだし。
彼を見れば、その自信たっぷりの笑みが魅力的で、私の胸はまた高鳴ってしまう。
重症だと、自分でもわかっている。



「そういえばミョウジ、今年のダンスパーティなんだけど。僕と踊らないかい」



私は口に含んだクッキーを吹き出しそうになった。
まさか。
マルフォイが私を誘うなんて。
驚いたのは私だけではないようで、ザビニも目を丸くして身を前に乗り出した。
椅子ががたんと音を立てる。



「ちょ、お前はパーキンソンと踊るんじゃないのか!?」

「いいや、今年はミョウジと踊る」



ザビニが声をあげた。
私の心臓は、胸から出てきたいと言っているかのように激しく鼓動していた。
彼がパンジーを差し置いて私と踊りたいと言っている。
それがどれだけ夢のような話か。



「パーキンソンはいいのか?」

「いいんだ」



そう言ったマルフォイがこちらを向いた。
私は思わず息を飲んだ。
その表情に温かさが見て取れなかったから。



「君が言ったように、最近ミョウジはめっきり美人になったな。パーキンソンより華やかで、僕の隣に置くにはいいだろう」



自分の顔から喜びの色が消えていくのを感じた。
パーキンソンより華やかで、僕の隣に置くにはいいだろう。
もう一度、心の中で復唱する。
その言葉の意味がわかるような、わからないような、それでも嫌な予感が押し寄せていた。



「お前なあ…そんな言い方、女にするもんじゃない」

「何が悪いんだ?パーティでこの僕の隣にいて恥ずかしくない女を選んでいるだけだ」

「女はアクセサリーじゃないぜ」

「君が言うな」



マルフォイが笑った。
私は急に泣きたい気持ちになった。
女はアクセサリーじゃないって?
マルフォイは私をアクセサリーとして踊る相手に選んだの?
そんな疑問が湧き出たが、それらが口から出ることは決してない。



「一応、俺が先に誘ったんだけど」

「関係ない。ミョウジは僕と踊る。そうだろう?」



二人がこちらを見た。
ザビニはかなり不満そうだが、マルフォイは自信ありげに口角をあげていた。
やはりその表情に温かみは欠片もなくて。
私は思わず息を飲んだ。
少しの沈黙が流れ、その間誰も動かなかった。



「マルフォイがいいなら、それで」



気づいたらそんな言葉が口から出ていた。
マルフォイがにやりと笑った。
そう言ってくれるとわかっていたよ、と。



私の大好きな彼の笑みに、私はうまく笑い返せていたかわからない。
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