呪文学の授業から帰るとき、ハーマイオニーはぶつぶつと文句を言いながら、ものすごい速足で廊下を進んでいた。
僕とハリーがついていくのが大変なくらい。
「ハーマイオニー、君の気持ちもわかるけど落ち着いて」
「歩くのが速いよ」
ハリーがなだめるように言って、僕もその後に発言したら、思いっきり彼女に睨まれた。
しかも僕だけ。
「気持ちがわかるですって?わかるわけないじゃない!あなたたち、髪が短いのに」
そう言ってハーマイオニーはさっきよりもっと速足で歩きだした。
僕らはもう駆け足だ。
前を行く彼女の髪が揺れる。
なんで彼女がこんなに怒っているのかといえば、原因は呪文学の授業が終わりかけた時に起きた。
マルフォイのとりまきのミョウジがハーマイオニーの髪にクモを入れたのだ。
「見て、あまりに汚くてクモがわいた」とか言いながら。
それでハーマイオニーは半狂乱になって…。
僕はクモが怖いから何もできなくて、結局ハリーが呪文で飛ばしたんだ。
「長い髪にクモが絡まってもぞもぞ動くこの感じ…あなたたちにわかるわけないじゃない!」
わかりたくもない!
僕は心の中でそう叫んだ。
あの光景を思い出すだけで、僕は内臓の中まで鳥肌が立つような気がするほど嫌悪感を抱くのだ。
ハーマイオニーはご立腹だけど、悪いのはミョウジなんだからそっちに怒りをぶつけてほしい。
しかし、そんな僕の思いが伝わることはない。
「きゃっ」
「おっと、危ない」
速く歩きすぎたせいだろう。
角でハーマイオニーと僕の兄のパーシーがぶつかりそうになった。
間一髪だった。
ハーマイオニーが平静を装って髪を撫ぜた。
あのマルフォイたちに馬鹿にされた髪だ。
「急ぎの用事かい?」
「いえ、違くて…」
「ミョウジに悪戯されて怒ってたんだ」
「ロン!余計なこと言わないで!」
「ミョウジ?ああ、あのいつもマルフォイと一緒にいる」
ホグワーツ中であの四人は有名だ。
嫌味ったらしくて、プライドが高くて、いつも人にいじわるして回ってるからだ。
パーシーは溜め息をついた。
「大丈夫かグレンジャー」
「ええ、もう」
「嘘ばっかりだ…」
「何か言った?ロン」
「イイエ、イッテマセン」
ハーマイオニー睨まれて僕はもう何も言わない事にした。
ハリーが苦笑している。
もう二言三言パーシーと言葉を交わして彼とは別れた。
さっきより遅いペースでハーマイオニーが歩き出す。
「気分はましになった?」
「さっきよりはだいぶ…」
「あの光景はまるで地獄絵図だったな…僕もう二度と見たくないよ」
「ちょっと、私が被害者よ!」
僕が喋ると彼女の怒りが増すらしい。
もう黙っていようと決めていたのに喋ってしまって後悔した。
ハリーが頭をかいた。
「ちょっと、ミョウジの悪戯には困るね」
「本当よ…ジョージとフレッドの悪戯より悪意を感じるわ」
「それはそうだよ」
「それに、あの四人組の中で積極的に悪戯を仕掛けてくるのは彼女だけよね?男子の方は嫌みを言うだけじゃない」
「可愛い顔してやることがえげつないよ」
「あら、彼女のこと可愛いと思うの?」
やばい、また喋ってしまった。
またじろりと睨まれる。
ああ、もう僕は爆弾を落としてばかりだ。
「可愛いと可愛くないのどちらかだったら、可愛い方じゃないか!」
「へえ、そう」
「何が不満なんだよ!」
「何も不満じゃないわ」
ハーマイオニーは本当に扱いにくい人種だ。
だからといって、嫌いなわけじゃ、ないんだけど。
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