「な、んですか」



押し出すように言うと目の前にいる巨体は黙ってしまった。
過去に話したことはなかったように思う。
しばらく互いに黙って視線は下を向いていたから、もういいだろうと思い立ち去ろうとすると、彼はすぐに口を開いた。



「ミョウジは、その…そっちの談話室にいたりするのか?」



足を止めて振り返った。
そんなに彼の表情のバリエーションを知っているわけではないが、かなり切羽詰まっているのは見て取れた。
ナマエの名前がその口から出てくるとは思わず、戸惑う。
確かに、おそらく彼女はグリフィンドールの談話室(そっちの談話室とはそういうことだろう)にはいるが、それを彼、スリザリンのゴイルに言っていいのかはわからない。



「いたらどうするつもりなんですか」

「それは…」

「ゴイル、いたか!?」



彼が言い終わらないうちにドタバタと足音が聞こえてきて、目の前の巨漢は二人になった。
走ってやってきたのは同じくマルフォイの子分のクラッブで、彼は私を発見するなり気まずそうに下を向いてしまった。
そして静寂が訪れる。また振り出しに戻ってしまいそうだ。
当然それは嫌だと思ったので、私は仕方なしに口を開いた。



「それで、ナマエに何の用なんですか?」

「えーっと…クラッブ、お前が言えよ」

「なんでだよ、お前が言えっ」

「嫌だ!お前が言えばいいだろ!」


なぜか取っ組み合いが始まってしまった。
もうどうしたらいいかわからなくなる。
まず止めに入る理由が特にないように思われたし、それに二人の間に割って入る勇気も自信もない。
二人の間に挟まれて窒息死か圧死なんて考えただけでやるせない。
このまま立ち去ってしまおうか、いや止めに入った方がいいのかと迷っていると背後から聞きなれない声がした。



「おいお前ら、大きな男が二人して暴れるな。危ないし何より邪魔だ」



思わず小さく声をあげてしまって、驚いて後ろを振り返るとまず緑色のネクタイが目に入った。
すぐにマルフォイだと思い警戒して一歩下がって顔を見上げたが、そこには全く別の顔があった。
セオドール・ノットだった。
彼は無表情に二人を見ていて、その視線を真っ向から受けた二人は互いを掴んでいた手を放して、うなだれた。
そしてその無表情な視線が私に向いた。



「ウィーズリーの妹も不愉快そうにしてるじゃないか」

「不愉快だなんて、そんな」



反論しようとした私の言葉を聞かないまま彼は視線を遠くへやってしまった。
ノットさんはスリザリンで唯一ナマエを庇った人だ。
今まで話したこともなければ、特に目立つこともなかった(かなりの秀才だというのは聞いているが)(最近はいろんな意味で目立ってはいる)彼は私にとってはヒーローのようなものなのだ。
心の中で小さくお礼を言う。
そして我に返って隣に立っているクラッブとゴイルを見た。
彼らは私と目があうと、互いに非難するような視線を向けながら早足に立ち去った。
(途中でクラッブが転んでいたが見なかったことにする。)



「別に僕は用もなくここに来たわけじゃない。それは彼らもだと思うが」



ノットさんはそう言って私に一冊のノートと箱を手渡した。
条件反射的にそれを両手で受け取る。
その箱は思ったよりも重量がないな、と思った。
何だろうと興味本位に思って、あとでナマエに見せてもらおうと考えた。



「まあ、何かはミョウジに渡せばわかるだろうから、頼む」



相変わらず彼は無表情だった。
本当に彼がナマエを救ったのか、疑問に思ってしまう。
だって、あまりにも冷淡で無骨そうなんだもの。
そんな私の考えを知ってか知らずか、彼は私をちらりと見てから何も言わずに去っていった。








- - - - - - - -









「ばかっお前のせいで全部台無しじゃないか」

「何言ってんだ、お前のせいだろう」



自分たちの寮に戻りながら僕らは互いに罵りあっていた。
そもそも彼女、ミョウジを探し出して、話をつけて連れ戻そうと言い出したのはゴイルだ。
その意見には賛成だったからこそ、ああして彼女を探して駆けずり回っていたわけだが、先ほどの失敗が僕のせいとは、納得がいかない。



「じゃあどうするんだよう」

「どうするって僕に聞くなよ」

「お前が悪かったんじゃないか!」

「なんだよ!マルフォイに言いつけるからな!」



僕がそう言い放つとゴイルの顔がひきつった。
言い出したのはゴイルだ、僕はやってないと言い逃れができる。
そう思い立ったら話は早い。
マルフォイを探して走り出した僕をゴイルが慌てて追ってくる。
二人で走りながら何人かを突き飛ばした気がするが、そんなこと気にするわけがない。
先にマルフォイを見つけ出したら僕の勝ちだ。



「マルフォイ!マルフォイ!」

「何だ騒がしいな静かにしろ!」

「ゴイルが!ゴイルがミョウジを連れ戻そうとしてるんだ!」

「なんだって?」



僕の言葉を聞いたマルフォイは目をつり上げた。
必死に追ってきていたゴイルは委縮したようだったが、すぐに僕の服を掴んで前に突き出した。
僕も抵抗したが、もう勝った気でいるからなんてことない。
怒られるのはゴイルで、悪かったのはゴイルだ。



「ちょ、クラッブだって連れ戻そうとした!」

「してない!ゴイルが勝手に一人でやってたんだ!」

「いいや、二人とも血眼になってミョウジを探してたように見えたが」



静かに低い声がして全員がそちらを見る。
そこにいたのは、先ほども見たあの憎たらしい顔。
またお前か!と叫びたくなったのを飲み込んだ。
ノットは涼しい顔で僕を見て、そして違うか?というように片眉をあげた。



「な…!ノット!」

「…なんで君がそれを知っている」

「さあな…でも君と、子分たちの意見が食い違ってるのは問題だな」



その言葉にみるみるうちにマルフォイの顔が赤みを帯びていく。
気のせいか、ノットの口角が少しあがった。
それとクラッブ、さっき転んだせいでズボンの膝が破れているぞ。
彼はそう付け加えた。
そして何事もなかったかのように自分の部屋と去って行った。
この後、被害を被るのは僕らなのに。



「ゴイル!クラッブ!またそんな馬鹿な真似をしたら…」



もう僕らは両目をぎゅっと閉じているしかない。


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